【イベントレポート】「共感」が抵抗を打破し、イノベーションを推進する。〜『イノベーションの起こし方』FORTHイノベーション・メソッド ワークショップ〜
オープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」とビジネスモデルイノベーション協会は、「『イノベーションの起こし方』FORTHイノベーション・メソッド ワークショップ」を8月30日に開催した。会場となったコワーキングスペース「SPACES」(東京都千代田区・大手町ビル1階)には、イノベーションや新規事業に関わる約60人が訪れ、満員に。参加者は最新のイノベーション手法「FORTHイノベーション・メソッド」(FORTHはFull Steam Ahead, Observe & Learn, Raise Ideas, Test Ideas and Homecomingの頭文字を取ったもの)に理解を深めると共に活発に交流を深め、盛り上がりを見せた。
ワークショップに先立ち、会場を提供する日本リージャスの担当者が挨拶。同社はオフィススペースやコワーキングスペースを提供する世界最大級の企業で、日本国内に広く拠点を持つ。提供するオフィスには会議室などの設備はもちろん、受付スタッフが常駐していることに触れながら、ステートアップへの積極的な支援を行っていることを強調した。
続いて、eiicon founder中村亜由子がスピーチ。サービス開始から約半年が経ったeiiconには1700社以上が登録し、企業同士のコンタクト数はこれまで約500社、さらに提携実績なども出ていると話した。
イノベーションが起こらないのは「共通言語」の欠如と示唆
本会では、まずビジネスモデルイノベーション協会の理事、山本伸氏が登壇。同協会は、世界の有識者たちを理事に迎え入れ、企業や個人に対し、イノベーションや新規事業のコンサルティングを行っている。同氏はイノベーションの世界的な潮流や、特に企業の中で新規事業を起こす際に求められる考えや環境について解説した。
新規事業が起こりにくい背景を「共通言語が欠如しているから」と指摘し、トップダウンにせよボトムアップにせよ、互いの背景や知識が違うため、相互理解に至らない実情があることを説明。その上で、同協会では「全体を見る鳥の目」「顧客を見る虫の目」「時代の流れを見る魚の目」を用いながら、組織や事業に革新をもたらしていることを伝えた。イノベーションは成長の欠かせない要素だとしながらも、具体的な「How」や「手法」がわからず、停滞している実情が述べられた。イノベーションを起こす具体的なメソッドについては、続く三宅氏に譲った。
▲山本 伸
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会理事
多摩大学医療・介護ソリューション研究所シニアフェロー
FORTHイノベーション・メソッド公認マスターファシリテーター(アジア人初)
Toynon LLC 代表
シミックホールディングス株式会社 社長室 マネージャー
遺伝子工学博士。外資系バイオテク・医療機器3社16年の経験を元に100%全員参加できる会議のファシリテーターとして独立。志高き介護・医療者と、10年後も活躍し続けたいビジネスパーソンを「ファシリテーション」で繋ぐことをミッションとする。そのための「共通言語」を開発・啓蒙し、持続的な新しい保険医療事業が10年後の健康社会を実現することをビジョンとしている。
ビジネスは計画ではなく、デザイン
三宅氏は、イノベーションを必ずしも新規事業を起こすことではないとした上で、イノベーションとはこれまでと異なることや異なる手法で物事を進めることだと伝えた。なぜ今イノベーションかという問いかけをし、それに対し時代のスピード感が大きく違ってきているからと理由を提示。
現在では情報の伝達スピードが高速化しており、5000万人に届く時間が過去50年で25倍になっていると解説した。その一例として、あるスマートフォン向けゲームが1週間で6500万人に利用されたことを取り上げた。このようなスピード感の中、これまでのビジネスモデルで通用しなくなっている。これに加え、「今は、ビジネスは計画ではなく、デザイン」と強調した。
また、ビジネスを分析する際に用いられるSWOT分析などが、大量生産・大量消費時代のモデルで「時代に合わなくなっている」と示唆する。「現代は一つのビジネスモデルを創出するのに与えられる時間は6分と考えるべき。それくらい求められるスピードは速い」と述べた。
▲三宅泰世
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会理事
NTTアドバンステクノロジ株式会社 マーケティング部門 部門長
Read for Action リーディングファシリテーター
アクセラメンツ・ファシリテーター
ハーマンモデル・ファシリテーター
NTTのグループ企業で企業内起業家として光通信関連機器を開発販売し世界シェアを独占。その後、イノベーション人材を育成するために、ビジネスモデルキャンバスを使ったワークショップをNTTグループ企業も巻き込み推進する。また、国内で医療業界での新規事業、海外向け環境関連の新規事業、地方議会のICT化などに関わる。アルマクリエイションズ社の企業イノベータ賞を受賞。平成24年3月には 国立情報学研究所にてBMGを用いたワークショップをファシリテートし、まるでTED conferenceのようだと賞賛を浴びた。
イノベーションにはプロセスが必要。
三宅氏は企業の中の人材についても触れた。人材育成も大量生産・大量消費時代の手法を踏襲しており、細分化された業務を行う「サイロ(穀物などの地下貯蔵庫)の中の囚人」になっていると解説する。その一方で、イノベーターになること、かつ社名ではなく個人名で仕事を取ることが求められており、組織内の人材にとって非常に困難な時代になっていることを示した。
こうした状況の中、同協会では大手企業などに対し、最新のフレームワークで先進的なICT企業などが取り入れている「ビジネスモデル・キャンパス」やオープンイノベーションを活用し、組織の変革のきっかけをもたらしていると伝えた。
ビジネスモデル・キャンパスは非常に有用な手法である反面、「手法があるだけではイノベーションは起こせない。プロセスが必要」と強調し、その意味で、次に何をすべきかが明確になっているFORTHイノベーション・メソッドが有効だと説明する。なお、三宅氏はオープンイノベーションを起こす際にFORTHイノベーション・メソッドを活用したと伝えた。
読書会で共感を引き出す。
イノベーションを起こす際に、個人にせよ組織にせよ抵抗は生じるが、その抵抗を突破する手段として有効なのが「共感」だと話す。共感を生み出すツールとして、三宅氏が推奨したのは「読書会」だ。実際に参加者は「START INNOVATION with this visual toolkit!―ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット」(ビー・エヌ・エヌ新社)を読み、本の内容を説明し合った。
三宅氏は「一人で読めば一の情報が手に入ります。でも、5人で読み合えば5の情報が手に入るでしょう。これが組織学習であり、組織の大きな価値です」と説明した。組織では通常、人材はサイロの囚人になっているが、読書会で共感を呼び起こし、その状況を大きく変えられるという。事実、参加者同士の読書会では、初めて会ったメンバーにも関わらず、共感を生み、仲間意識が醸造されていた。
最後に、改めて山本氏が登壇し「イノベーションは一人では起こせません。しかし、初めて会った人ともすることはできます」と伝え、共感を大切にしながらイノベーションと向き合ってほしいと会を締めくくった。
取材後記
これまでの常識を変えるイノベーションを起こすのには、時代に即した最新の手法を用いるのが大前提。これが、山本、三宅、両氏の講演を聞きいてもっとも大きな学びだった。考えてみれば当たり前のことだが、両氏が指摘するように、新しいことを始めようとしているにも関わらず、前近代的な手法を用いている場面が多くあると思う。時代が大きく変わった今、そのやり方ではもはや通用しないということは、頭に入れておくべきだ。イノベーションは一人では起こせないとの話も印象に残る。一人の力では限界があるし、現代のスピード感にも対応できないだろう。組織に所属しているのなら、組織内外の力を最大限に活用するのが、イノベーションを起こす近道になるはずだ。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)