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東武鉄道グループ一丸で挑む、アフターコロナの「観光」を盛り上げるオープンイノベーションプログラムとは

東武鉄道グループ一丸で挑む、アフターコロナの「観光」を盛り上げるオープンイノベーションプログラムとは

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創業以来120年以上にわたり、運輸・レジャー・不動産・流通などの事業を展開してきた東武鉄道。関東私鉄最長の460kmにわたる沿線には、世界遺産を擁する日光をはじめ、浅草、東京スカイツリータウン、鬼怒川、池袋、川越といった多様な観光エリアがあり、30以上もの観光施設が広がっている。

コロナ禍で観光業界は大きな打撃を受け、その復調にはまだ時間がかかることが見込まれる。しかし東武鉄道は、今こそグループ一丸となって観光事業をアップデートする契機だと捉え、「観光」をテーマとした初のオープンイノベーションプログラム『TOBU Open Innovation Program』の実施を決定した(※早期応募締切:2022年1月5日)。プログラム実施にあたっては、起案からわずか3カ月弱でグループ内の意見を集約し、経営会議の承認を得たという。さらに、22年3月までに数件の実証実験を見据えており、グループ全体としての本気度が伺える。

――そこで、本プログラムの事務局である観光部門のトップ、青柳健司氏に、今回のプログラム実施の背景や、テーマごとの具体的なビジョン、そして東武グループならではのアセットなどについて話を伺った。


▲東武鉄道株式会社 観光事業推進部長 青柳健司 氏

新卒で入社後、開発部門にて分譲マンション開発に10年程従事。その後、経営企画部、東京スカイツリータウン開業準備、東武鉄道の宣伝・営業を歴任。2015年頃、インバウンドの増加を背景にグループ横断でインバウンド専門部署を創設し、様々な企画を実行する。そしてコロナ禍において、新たな観光事業とグループ連携強化のために、2021年6月観光事業推進部がスタート、部長に就任する。

コロナ禍で観光事業は厳しい状況にさらされる一方、収穫もあった

――観光産業は、コロナ禍の影響を特に受けた領域ですが、貴社の観光事業の状況は、コロナ前後でどのように変化しましたか。

青柳氏 : 東武グループは観光に関わる企業が多く、コロナ以前はインバウンドの力で成長を続けていました。それが、コロナ禍に陥ったことで海外渡航がなくなり、国内の動きも激減したことから、大きな打撃を受けたことは間違いありません。

ただ、その中で新しい動きもありました。東武グループはこれまで、デジタル化において他の鉄道会社に後れをとっていたのですが、今年の7月、初の取り組みとしてリンクティビティ社の発券システムを活用した「東京スカイツリー天望回廊付き東武本線乗り放題デジタルきっぷ」(以下デジタルきっぷ)を発売。これにより、従来とは異なる単身層や、神奈川エリアのお客様にもご利用いただけました。

コロナ禍で観光全般がダウントレンドでしたが、新しい発想で取り組むことで、需要の掘り起こしができるという発見があったのです。お客様を“マス”で捉えるのではなく、“個別ニーズ”を的確にとらえて、付加価値を高めるよう変化することが必要だと考える契機になりました。


▲「デジタルきっぷ」のイメージ(※プレスリリースより抜粋)

――9月末に多くの都道府県で緊急事態宣言が解除されたことにより、観光も復調の兆しが見られているのではないでしょうか。

青柳氏 : 確かに、先ほどお話ししたデジタルきっぷは非常に好調ですし、全体的に夏場よりは高い動きが出ています。しかし、それがグループの観光リソースすべてに言えるわけではありません。

復調の兆しはありますが、まだまだお客様の動きは慎重です。今後、それが本格的な動きになることを期待したいですし、その動きに向けて我々も様々な施策を講じる必要があると感じています。

アフターコロナの世界に見据える、東武グループの4つの再興戦略

――そのようななかで、アフターコロナに向けて東武グループとして考えていらっしゃる観光業の復興戦略や、目指す世界観についてお聞かせください。

青柳氏 : 東武鉄道は東京・千葉・埼玉・栃木・群馬に約460キロと広く、我々は「奥行きがある」という言い方をしていますが、都市部から世界遺産の日光、さらにその先には福島の会津までテリトリーに入り、広大な自然や観光資源が多彩です。そうした沿線の観光資源をもっと掘り起こせば、さらに取り組みを広げられるのではないかと思います。

また、先ほど申し上げたように東武グループは観光に関わる企業が多く、これまで地域の皆様や観光協会とも強固な関係を築いてきました。今後は、地方創生、そしてSDGsの観点は不可欠です。長期的にインバウンドの復調も視野に入れながら、今後数年は新たな沿線価値を創出する必要があると考えています。

――その上で、現在どのような戦略を進めているのでしょうか。

青柳氏 : 4つの戦略を置いています。1つは、「重要観光拠点のブランド強化」です。浅草、東京スカイツリー、日光、鬼怒川、池袋、川越といった重要観光拠点のレベルをさらに上げていく必要があります。たとえば、奥日光には2020年に”ザ・リッツ・カールトン日光”、”ふふ日光”が開業しました。そうした施設のゲスト向けに、東武グループが連携して特別な観光プランを提供するなど、新たな企画を進めています。

2つめは、「新しい観光拠点の整備」です。コロナ禍でマイクロツーリズムに注目が集まっています。東武東上線には、小川町という和紙の製作技術がユネスコの無形文化遺産に登録された町があります。近年、その小川町に蔵をリノベーションしたコワーキングスペースができたり、以前都心部に勤めていた若い方が移住したりしています。私も実際に足を運んでみて、その変化に驚きました。この動きを中長期的に高めていき、オーガニックツーリズムなどができないかと考えています。

また、春日部の首都圏外郭放水路は神殿のような佇まいで、他にないユニークさがあります。これをインフラツーリズムとして、もっと価値あるものにしていきたいです。そこには春日部駅・南桜井駅からタクシーやバスを利用していく必要があるため、その二次交通の整備においても実証実験を進めるなど、中広域の掘り起こしに取り組んでいます。


▲東武トップツアーズでは、首都圏外郭放水路の探検コースを含む日帰りツアーを企画(※プレスリリースより抜粋)

――残る2つの戦略についてはいかがでしょうか。

青柳氏 : 3つめの戦略は「DXとマーケティング」です。ニーズを可視化するためにも、DXとマーケティングはもはや不可欠です。今年の10月には、「NIKKO MaaS」と銘打った観光型MaaSの導入を発表しました。また、「TOBU POINT」というポイントサービスも導入しており、会員向けの企画もおこなっています。

さらに今後は、「東武グループ版ワクチンパスポート」の導入を計画しています。コロナワクチンを2回接種した方や、陰性証明を提示いただいた方には特典を付与するようにして、利用促進を図ります。

最後に4つめは、「オープンイノベーション」です。いくら様々な施策を講じても、我々だけの発想では限界があり、時代に取り残されてしまうでしょう。そこで、他社の技術やサービスとの共創を進めることで、新たな事業機会の創出を行って収益を高めることはもちろん、観光産業全体の復興に寄与していきたいと考えています。そのためにも、オープンイノベーションは欠かせないものであり、今回当プログラムを開始するに至ったのです。


わずか3カ月弱で、オープンイノベーションプログラム起案から経営会議の承認を実現

――今お話しいただいたような戦略を踏まえて、今回東武グループ初のオープンイノベーションプログラムを開始されるということですが、現状様々な鉄道会社がオープンイノベーションに取り組んでいらっしゃいます。他社の動きをどのように捉えていらっしゃいますか?

青柳氏 : 以前から同業他社の動きには注目していましたが、数年前は当グループがインバウンドに注力していた時期で、オープンイノベーションに本格的に取り組む時期ではありませんでした。コロナ禍で観光業界全体が苦しんでいる今こそ、オープンイノベーションの活用といった新たな取り組みが必要だと考えています。

同業他社を見ると特定領域に絞らず、幅広い観点で行っていらっしゃいますが、観光業復興に寄与したいという思いも込め、東武グループは今回、観光に特化したオープンイノベーションプログラムを実施しようとしています。今年の6月に観光事業推進部が発足し、グループ内のヒアリングや競合調査を8月までに行い、企画書をまとめて9月下旬には経営会議にかけてプログラムの実行を決めるという、非常に速いスピード感で進めています。

――かなりのスピード感ですね。その時の経営陣の反応はいかがでしたか?

青柳氏 : 満場一致で、ネガティブな声はひとつもありませんでした。やはり、コロナ禍の難局を乗り越え、観光産業をさらに高めていくために他社との共創が不可欠だという意識は、経営陣にもあったのだと思います。

グループ間連携によって浮き彫りになった、現場課題とテーマ設定の背景

――今回のプログラムでは、「①アフターコロナにおける観光体験価値のさらなる向上」、「②デジタル化による旅の利便性向上」、「③所有施設の有効活用による新たな魅力の創造」、「④サステナブルな観光事業の実現」、これら4つのテーマを設定していらっしゃいますが、その背景をお聞かせください。

青柳氏 : テーマ設定にあたり、観光事業推進部内だけである程度テーマを決めることもできましたが、グループとして最終的にプロジェクトの実効性を上げていかねばなりません。そこで、グループ各社に事前ヒアリングを行いました。その結果、これら4つのテーマを設定したのです。

各社のコメントをみていると、「①アフターコロナにおける観光体験価値のさらなる向上」に関しては、コロナ禍で価値観が大きく変わったことはもちろん認識しているものの、それに対してどのような価値を創出すればいいのか、具体的にどのような取り組みが必要なのか、現場は迷いを抱えていると感じています。

「②デジタル化による旅の利便性向上」については、もちろん環境整備や利便性向上という側面はありますが、観光施設では運営面での効率化、また百貨店などはECや在庫管理に関するアイデアを欲しているようです。

「③所有施設の有効活用による新たな魅力の創造」では、コロナ禍でグループ各社効率化に取り組んでいるものの、一方で活かしきれていない時間や空間があることを課題だと捉えています。特に観光地では、閑散・繁忙の平準化や、悪天候時の施設活用について、何か良い方法を求めています。

「④サステナブルな観光事業の実現」も、今後不可欠な視点です。しかし、こちらもテーマ①と同様で、具体的にどのように取り組めばいいのか、そしてどう収益とのバランスを取るのか、考える必要があります。

――プログラムの企画をスピーディーにまとめるのと並行して、グループ各社へのヒアリングも行っていらっしゃったのですね。もともとグループ間での連携はスムーズだったのでしょうか?

青柳氏 : 以前インバウンド施策を実行する際に、グループ企業や施設が横連携できるような体制をつくっていました。今回もオープンイノベーションプログラムを経営会議にかけると同時に、すぐにグループ横断会議も開催して各社の意見を吸い上げました。するとレスポンスも非常に高く、具体的なアイデアも出てきたのです。グループ各社も同じことを考えていたのだとわかりました。

今回4つのテーマで様々な提案をいただけると思いますが、共創プロジェクトを実行するのはグループ会社の現場です。そのためのスムーズな連携体制ができていることは、当社の大きな強みであり、素早く実証実験を行うことができると考えています。


共創実現まで1ヶ月という事例も。今年度中の実証実験、来年度には事業化を目指す

――続いて、今回のオープンイノベーションプログラムの特徴や、提供できるアセットについてお聞かせください。

青柳氏 : ひとつは、沿線の広さと、都市部や温泉地など多くの観光地を抱えていることです。それに加えて、グループ施設も多種多様です。鉄道・バス・タクシー・ホテル・百貨店など、観光に関わるあらゆる機能を保持しています。

さらに鉄道だけでも、通勤列車やライナー輸送はもちろん、特急電車やSLがあります。ホテルはカジュアルからラグジュアリーまで多彩に揃っているため、実証実験の場には事欠きません。データに関しても、ご提案の内容を見て、なるべく活用できるよう柔軟に対応したいと考えています。

――今回、1月5日に早期応募締め切り、そして2月8日に後期応募締め切りを設定していらっしゃいます。なぜ、2段構えにされたのでしょうか?

青柳氏 : 早期募集で素早く対応を行い、今年度中に数件実証実験を進めたいと考えているからです。そのために、プログラムの企画もスピーディーに進めてきました。グループ連携体制も、先ほどお話しした通り整っているため、「これは」というご提案があれば、迅速に対応していきます。

――冒頭にお話しいただいたリンクティビティとのデジタルきっぷの事例については、どのくらいの期間で実現したのでしょうか。

青柳氏 : だいたい2カ月程度です。リンクティビティ社は、東武タワースカイツリーと以前から取引があったとはいえ、鉄道会社での連携は一般的に1年程かかると言われています。それを、なんとしても今年の夏の集客に向けて実施したいということから、関係各所と一致団結して約2か月で実現させることができました。実際に、感染状況が特に悪かった7,8月こそ動きは鈍かったのですが、9月はコロナ禍前の企画券と比較してもかなりの実績をあげられました。

このように、当グループは「やる」と決めたらスピーディーかつスムーズにプロジェクトを進められる体制があります。だからこそ、「年度内に実証実験」も決して無理なものではなく、現実的な目標だと捉えています。

――最後に、パートナー企業と共にどのようなプログラムにしていきたいか、メッセージをお願いいたします。

青柳氏 : アフターコロナの世界では、昔とまったく同じ経済活動が戻ることはないと考えています。そうした新しい世界観のなかで、今後の生き残りと観光産業の発展のために、スタートアップの皆さんとの共創を通じて事業を創出していきたいです。単なる利便性や効率性の向上だけではなく、私たちが思いもよらないようなアイデアに期待しています。

そして、デジタル化がどれだけ進展しようとも、観光における「リアル」な体験は、普遍的な価値として求められ続けるでしょう。その点、東武グループには観光に関する資源やテリトリーがあります。観光の価値を時代に合わせてアップデートさせていくと同時に、新しい事業をひとつでも多く生み出していきたいです。

今年度中には実証実験を数件、そして来年度中に事業化を現実的な目標としています。中長期的な視点でインバウンドが復活してくると、さらに大きな取り組みができると考えているため、ぜひ積極的にご応募ください。


取材後記

1月末に早期締め切りを設定し、事業化に向けてスピーディーな動きを見据える本プログラム。鉄道会社のオープンイノベーションプログラムとして後発ではあるものの、東武グループならではの「観光」に特化した独自のテーマ設定になっているだけでなく、経営陣のコミットメントや実行部門となるグループ各社との連携体制も非常に強く、年内の実証実験開始は十分実現可能である。

コロナ禍で打撃を受けた観光業界だが、青柳氏のインタビューでも語られたように、東武グループには知名度の高い観光地から、高いポテンシャルを有する未利用施設まで、多様なアセットがある。アフターコロナにおける観光業界の新たな流れをつくるためにも、ぜひ応募を検討して欲しい。(詳細は以下URLよりご覧ください)

https://eiicon.net/about/tobu-oi2021/


(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)

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  • 田上 知美

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