未来の“暮らしのスタンダード”を大阪ガスと共創する。――2年目を迎える「OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT」のビジョンに迫る
時代を超えて選ばれ続けるエネルギー&サービスカンパニーを目指し、人々の生活を豊かにする事業を拡大する大阪ガス。日本におけるオープンイノベーションの先駆者として、2009年から外部パートナー企業との共創を開始し、これまで様々な成果を生み出してきた。2018年には、従来の枠を超えた新たな価値創造に挑戦すべく、「イノベーション本部」を創設。さらに2020年度より、“従来の技術・サービスのマッチング(1.0)に留まらず、新たな価値をパートナーとの共創で生み出す(1.5)”ための取り組み、『大阪ガス・Daigasグループ×AUBA OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT』を本格始動させた。
そんな中、初年度の成果を受け、大阪ガスは2021年度もオープンイノベーション1.5プロジェクトを開始。多様なサービス・豊富な顧客接点・生活基盤データなどのアセットを活用し、新たなビジネスの可能性を広げようとしている。
――今回TOMORUBA編集部では、前年度の取り組みの振り返りと今年のプロジェクトにかける想いを伺うとともに、設定された以下3つのテーマの各担当者に、それぞれのテーマの設定の背景や提供できるアセットなどについて聞いた。
●テーマ① : ライフステージに合わせたWell-beingの実現
●テーマ② : 高齢者(シニア世代)の健康見守りサービス
●テーマ③ : スマートライフに向けた集合住宅・不動産事業者向け新サービス
豊富な既存アセットを活用し、社会課題を解決する新たなビジネスの可能性を広げたい
まずは、大阪ガスのオープンイノベーション1.5プロジェクトを推進するイノベーション推進部の小幡氏、そして昨年度の「OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT」(※)において「食体験を簡便・安全に提供するサービス」というテーマを担当したエナジーソリューション開発部(兼イノベーション推進部)の藤田氏に、昨年の総括と今年度のプロジェクトにかける想いを伺った。
※参考記事:オープンイノベーションの先駆者、大阪ガスの新たな挑戦 「大阪ガス・Daigasグループ×AUBA OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT」始動
――昨年度の「OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT」を振り返って、いかがでしょうか。
小幡氏:大阪ガスのオープンイノベーション活動は、2009年に始まり、今年で12年となります。2018年にイノベーション本部を創設し、2020年には『大阪ガス・Daigasグループ×AUBA OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT』を始動しました。
昨年のプログラムでは、多くの有望なスタートアップ企業との出会いがありました。まだ具体的な成果には至っていませんが、継続的なやり取りの中で新しい発想をいただきながら、前進しているところです。例えば、「地下埋情報・技術を活用した、不動産事業者や生活インフラ事業者向けの新サービス」のテーマにおいては、次の共創ステージに移っており、「食体験を簡便・安全に提供するサービス」のテーマについても、具体的なイメージが固まり始めています。
▲大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室 小幡成雄氏、エナジーソリューション事業部開発部 サービス企画チーム 藤田敦史氏
――今年度は3つのテーマを設定していらっしゃいますが、今回のプロジェクトの狙いとビジョンをお聞かせください。
小幡氏:大阪ガスの保有する幅広いサービス、豊富な顧客接点、そして生活基盤データなどのアセットを最大限活用し、新たなビジネスの可能性を広げていきたいと考えています。最適な顧客体験の実現に向けた「Well-beingの実現」、超高齢化社会を見据えた「見守りサービス」、そして快適な都市生活の基盤となる「集合住宅・不動産事業者向けサービス」、今回はこの3つのテーマを掲げています。
各テーマにかける想いは、これから担当者に話してもらいますが、やはりDaigasグループの中期経営計画「Creating Value for a Sustainable Future」で触れている「ミライ価値の創造」、そして当社が掲げる「お客様の期待を超えるサービスの提供」や「時代を超えて選ばれ続ける革新的なエネルギー&サービスカンパニーへ」といったビジョンに集約されると感じています。
▲Daigasグループ中期経営計画2023「Creating Value for a Sustainable Future」より抜粋
――藤田さんは、昨年度のプロジェクトでは食体験のテーマでご参画されていましたね。その際のご感想や、これからの意気込みをお話しいただけますか?
藤田氏:プロジェクトをきっかけにお話ししたスタートアップは、それぞれ非常に魅力的な人、そしてサービスをお持ちでした。私は事業部側の人間なので、目の前の事業の立ち上げという短期的なゴールに集中しがちなのですが、その先を見据えたディスカッションを行い、より大きな未来を共に描けるパートナーさんと出会えたことが、大きな成果の一つだったと感じています。
小幡から「ミライ価値の創造」という話もありましたが、未来に向けて新しい価値を創造するには、私たちの力だけではなく、さまざまなパートナーの方々と”掛け算”をしていくことが必要です。今年度のプロジェクトでも、そうした出会いのもと、お客様により選ばれるサービスの開発につなげていきたいと考えています。
テーマ① デジタルの力で、人々のより良い暮らしや生活を実現
最初のテーマは、「ライフステージに合わせたWell-beingの実現」だ。暮らしの困りごとをデジタルの力を活用して解決するアイデアを、幅広く募集する。エナジーソリューション計画部の清水氏と、大阪ガスマーケティング 商品技術開発部の藤井氏に、テーマの背景や実現したいビジョンについて伺った。
――はじめに、テーマを設定した背景をお聞かせください。
清水氏:大阪ガスでは、これまで培ってきたリアルな顧客接点とデジタルを融合し、最適なタイミングで最適なソリューションを提供する、「スマイLINK」というサービスプラットフォームの構築を進めています。このプラットフォームでは、暮らしを支えるサービスを広く提供していきたいと考えています。
特にこのコロナ禍で、普段のお買い物にすら不便を感じたり、高齢者の方々はお孫さんに会えなかったりと、暮らしに関わるサービスのニーズが高まっているのではないでしょうか。そうした課題を、デジタルの力を使って解決し、よりよい暮らしや生活につなげていきたいと考え、このテーマを設定しました。
▲大阪ガス エナジーソリューション計画部 清水氏
――共創パートナーと共に実現したいビジョンや世界観について、ぜひお聞かせください。
清水氏:私たちは、「スマイLINK」を通して、さまざまなターゲット層の暮らしの困りごとを解決していきたいと考えています。人々が日常的に感じているけれど、諦めてしまっている、そんな課題の解決に向けて寄り添いお手伝いをする、「暮らしのアテンダント」としての存在を目指しています。ぜひ、暮らしをより豊かに快適にできるようなサービスを一緒に展開していきましょう。
藤井氏:「今は存在しないが、数年後にはそれがないと困る」ようなサービスや製品に気付くきっかけが欲しいと考えています。それは難しいことですが、私たちが考えるだけでは生まれないアイデアが、さまざまな企業の方々と議論をするなかで形になっていくかもしれません。「これは駄目かな」と最初から諦めるのではなく、共創を通じて、将来のスタンダードとなるサービスを一緒に生み出していけたらと思います。
テーマ② シニア世代に関わる全ての人に価値提供できる見守りサービスを
世界に先駆けて、超高齢化社会に突入している日本。そのなかで、Daigasグループではガスメーターの見守りサービス「みるぴこ」などによる、リアルな顧客接点を持つ。テーマ②「高齢者(シニア世代)の健康見守りサービス」ではその接点を活かし、シニア世代のみならず、シニア世代の家族向けのサービス等を生み出す共創パートナーを募集する。
ここでは、大阪ガスマーケティングの高橋氏・松村氏、そしてガスエンジニアリング部の塚本氏にお話しを伺った。
――今回設定されたテーマの背景についてお聞かせください。
高橋氏:大阪ガスでは、ガス漏れや消し忘れを検知してお知らせする見守りサービス、「みるぴこ」を提供しています。こちらは、30年ほど前から提供を開始し、ガスの使用に関する不安を解消する目的で、現在は高齢者世帯を中心に約40万件のご契約をいただいています。私は、その拡販を担う部署の所属です。
歴史と強固な顧客基盤がある「みるぴこ」ですが、ガスメーターだけでできることには、限界があります。いま、さまざまな見守りサービスが世の中にあること、技術が発展していることから、これからはガスだけにとらわれず、新たな観点でさらに魅力的なサービス開発に取り組んでいきたいと考え、今回のテーマを設定しました。
サービス開発はもちろん、現在の顧客へのアップセルや、新規顧客の獲得も、ぜひ新たなパートナーさんと行っていきたいと思っています。
▲大阪ガスマーケティング株式会社 販売企画部 高橋氏
――塚本さん、松村さんは、どのような企業と組んでいきたいとお考えでしょうか。
塚本氏:高齢化社会の進展に伴って、見守りサービスの市場も拡大していくため、非常に可能性のある領域だと考えています。見守りサービスを展開するには、「見守る側」のニーズはもちろん大切です。しかしその一方で、高齢者など「見守られる側」にもメリットがあるサービスも検討しています。認知症予防のための早期フレイルの検知など、医学的な知見を持つ企業と取り組むことができれば、より魅力的なサービスになるのではないかと期待しています。
▲大阪ガスマーケティング株式会社 開発推進部 松村氏、大阪ガス ガス製造・エンジニアリング部 塚本氏
松村氏:私は開発推進部という新規サービス開発を担う部署に所属しています。以前は機器を開発する部署で、「スマぴこ」という人感センサーを搭載したIoTガス警報器の開発をしていました。
その人感センサーを、今回の見守りサービスでも活用できるのではないかという視点で、参画しています。共創パートナーの方々が持つ機器にアルゴリズムを掛け合わせ、新たなサービスを開発していきたいと考えています。
――本テーマの応募を検討している企業に向けて、一言ずつメッセージをお願いします。
高橋氏:ガス関連の見守りだけではなく、お家全体まで視野を広げて、高齢者の方々やそのご家族に安心していただけるようなサービスを、ぜひ一緒に開発していきましょう。
塚本氏:「見守り」と聞いて、あまり自社とは関係ないと感じる企業の方々もいらっしゃるかもしれませんが、例えば「行動を検知する」というふうに視点を変えるだけで、実は活用できる技術やサービスはたくさんあると思います。「見守り」というイメージにとらわれず、幅広い視点でご提案をいただけると嬉しいです。
松村氏:超高齢化社会に、日本は既に突入しつつあります。そこから生じる社会課題の、解決の一助となるようなサービスを開発していきたいと考えていますので、ぜひご応募を検討ください。よろしくお願いいたします。
テーマ③ 関西発の不動産テックで、選ばれ続けるサービスを創る
空き家の増加など、さまざまな社会課題が生じつつある不動産業界。そこで、テーマ③では「スマートライフに向けた集合住宅・不動産事業者向け新サービス」を掲げ、ガス・電力という主力サービスを組み合わせながら、ユーザーの価値向上を可能にするサービス開発を共に行うパートナー企業を募集する。
大阪ガス マーケティング法人開発営業部の山根氏に、共創にかける想いを伺った。
――不動産テックをテーマに据えた理由をお聞かせください。
山根氏:不動産業界は今大きく変化しつつあり、スマートシティ構想や街づくりへのニーズ、そして空き家問題など、さまざまなターニングポイントを迎えています。一方我々エネルギー業界では、特に賃貸市場や集合住宅市場において、多くのプレーヤーがひしめき合い、競争が激化しています。
そこで、不動産管理会社様の課題を解決できるサービスを私たちが提供できれば、社会課題の解決につながり、選ばれ続ける存在になるだろうと考え、このテーマを設定しました。
大阪ガスには、エネルギーを通じてさまざまな管理会社との接点があります。この接点を活用し、エネルギーとDXをセットで提供するサービスの開発や、物件価値の向上につながる、そして入居者様の暮らしがより便利になるようなサービスの提供をしていきたいと考えています。
▲大阪ガスマーケティング法人開発営業部 山根氏
また、私たちはエネルギーを個人顧客向けに提供をしているため、BtoBのみならず、BtoBtoCをイメージしたサービスを展開することも可能です。賃貸住宅や集合住宅にお住まいの方々には、固有の課題があるはずなので、その解決に向けて共創パートナーを募集しています。
――今回提供できるリソースやアセットについても教えてください。
山根氏:ひとつは、管理会社との接点です。また、多くの賃貸ご入居者さまに当社とガスの契約を結んでいただいているため、既存の入居者との接点も大きなリソースだといえます。
さらに、関西各地に広がる大阪ガスサービスショップを通じて、お客様とface to faceのコミュニケーションを行える営業基盤は、大阪ガスならではの強みです。具体的なサービス例として、家事代行や家具のサブスクなども挙げていますが、大阪ガスブランドでサービスを展開できることも、手前みそではありますがひとつのメリットになると思います。
――共創を検討している企業に、メッセージをお願いいたします。
山根氏:人々の生活をより豊かにしていきたいという想いを持った方と、共創を進めていきたいです。私たちの保有するリソースをフル活用して、ぜひ管理会社や入居者様に選ばれるサービスを開発・提供できればと思います。関西発で、不動産テックの新たなサービスを、ぜひ一緒にゼロから起こしていきましょう。ご応募をお待ちしております。
取材後記
「時代を超えて選ばれ続けるエネルギー&サービスカンパニー」を目指す大阪ガス。10年以上にわたりオープンイノベーションに取り組んでいる同社だが、毎年コンセプトやテーマをアップデートしながら、新たな挑戦を続けている姿が印象的である。
今回のプロジェクトでは、「Well-being」「見守りサービス」「不動産テック」という、いずれも背景に大きな社会課題を抱えるテーマを掲げている。ガスやエネルギーなどの既存事業の枠を超えた、新たな価値の創造を目指していることが感じ取れるテーマ設定だが、その中でも、これまでに培われた豊富な顧客接点やビッグデータなど、大阪ガスならではの強みを存分に活かすことが出来る。『大阪ガス・Daigasグループ×AUBA OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT 2021』から、どのような共創が生まれ、世の中に羽ばたいていくのか、今から楽しみだ。
※『大阪ガス・Daigasグループ×AUBA OPEN INNOVATION 1.5 PROJECT 2021』の詳細はこちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)