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両利き経営でビジネスモデル転換に挑む東北電力――スマート社会実現を目指すOIプログラム開催の理由とは?

両利き経営でビジネスモデル転換に挑む東北電力――スマート社会実現を目指すOIプログラム開催の理由とは?

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2021年5月、東北電力株式会社(以下、東北電力)は、創立70周年を機にオープンイノベーションの取組みを加速させるためオープンイノベーションプログラム「TOHOKU EPCO BUSINESS BUILD」(応募締切:6/14)をスタートさせる。

プログラムは、約1ヶ月の募集期間を経て、書類選考・面談選考を実施。7/16・17に「TOHOKU EPCO BUSINESS BUILD DAYS」を開催し、東北電力グループのキーパーソンとのディスカッションなどを通じて事業アイデアをブラッシュアップし、インキュベーション期間を経てPoCなど事業化に向けた取り組みを進めていく。

そこで今回、TOMORUBAでは、東北電力の取締役副社長であり、今年4月に設立された新会社「東北電力フロンティア株式会社」(以下、東北電力フロンティア)で取締役社長を務める岡信愼一氏にインタビューを行い、プログラムのスタートに関する経緯や背景について伺った。

2020年2月に策定した中長期ビジョンにおいて「スマート社会の実現」をキーワードに掲げた東北電力。岡信氏は今回のプログラム開催も、スマート社会の実現を促進する取り組みだと語る。同社が目指すスマート社会とは、一体どのようなものなのか?そして、なぜ、それを目指すに至ったのか?――その背景には、同社が抱える、ある「危機感」の存在があった。


▲東北電力株式会社 取締役副社長 副社長執行役員/東北電力フロンティア株式会社 取締役社長 岡信愼一氏

1979年、東北電力株式会社入社。2015年、取締役副社長に就任し、以降、コーポレート、IoTイノベーション、CSR、IRなどの各部門を担当。2021年4月には、スマート社会実現事業を牽引する新会社「東北電力フロンティア株式会社」の取締役社長に就任。

電力業界の地殻変動に危機感。両利きの経営による、ビジネスモデルの転換を狙う。

――「TOHOKU EPCO BUSINESS BUILD」のお話の前に、まず東北電力の現状についてお伺いします。昨今、世界的な脱炭素化のトレンドや国内市場における電力小売全面自由化などの影響を受けて、電力業界を取り巻く環境は大きく変化しています。現在、東北電力は自社の事業環境をどのように捉えていらっしゃいますか。

岡信氏 : 今まさに、重要な転換点を迎えていると認識しています。近年、電力小売全面自由化、送配電部門の分社化、再生可能エネルギーの導入拡大など、電力業界の根幹を揺るがす動きが立て続けに起こりました。また、最近では、社会全体のデジタル化により、電力の需給構造自体が大きく変わりつつあります。

さらに、東北電力に限っていえば、事業基盤における社会構造の変化も見逃せません。東北電力が事業基盤を置く東北6県及び新潟県は、全国的にも人口減少と少子高齢化が顕著で、それに伴う社会課題も数多く抱えています。

これらの業界的・社会的な変化に、東北電力としては大きな危機感を抱いています。実際に、電力小売全面自由化の影響は顕在化しており、顧客の離脱や収益性の低下も起こりつつあります。急速な事業環境の変化に対応するためにも、従来のビジネスモデルの転換が急務になっています。

――具体的にどのような”ビジネスモデルの転換”を目指しているのでしょうか。

岡信氏 : 2020年2月に策定した「東北電力グループ中長期ビジョン」のなかで、東北電力は「東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループ」を2030年代における「ありたい姿」としました。その実現を目指し、2030年代までにビジネスモデルの転換を図っていきます。

具体的には、「既存事業の深化」と「新規事業の探索」の両立により、ビジネスモデルを転換していきます。既存事業の領域では、電力供給事業の構造改革に取り組み、競争力強化と収益性向上を実現。一方で、新規事業の開発にも注力し、いわゆる「両利きの経営」を推進します。これは東北電力のあり方そのものを変革する取り組みであり、電力業界でも非常に挑戦的な試みであると自負しています。


電力供給を中心としたサービスプラットフォームの構築で、スマート社会を実現。

――ビジネスモデルの転換の手段として、「新規事業の探索」を挙げられていますが、どのような新規事業を創出するのでしょうか。

岡信氏 : 「スマート社会実現事業」の創出を目指します。スマート社会とは、政府が提唱する「Society 5.0」を意識して、東北電力が定めた、目指すべき未来社会の姿のことです。


▲スマート社会実現事業のイメージ

具体的には、次世代のデジタル技術やイノベーションを活用して、地域の経済発展と社会課題解決が同時に達成される社会です。今後は、全国に先駆けて人口減少、少子高齢化が進行する東北・新潟地域において、スマート社会を実現する事業に取り組んでいきます。

先ほど述べた東北電力グループ中長期ビジョンでは、スマート社会実現事業の展開イメージも策定しています。基盤事業を中心に同心円を描く形で、スマート社会実現に向けた複数の事業を展開し、それらをパッケージ化してお客さまにご提供するイメージです。


▲スマート社会実現事業の展開の仕方

例えば、同心円の中心には、発電や小売などの電力供給事業が位置付けられます。設立以来、70年に渡って取り組んできた、電力供給事業における専門性を生かして、企業としての競争力を高め、安定的な収益を確保します。

そして、その後には、蓄電池、太陽光発電、電気自動車などを活用した「次世代エネルギーサービス事業」や、ご家庭の見守りやエネルギーマネジメントなどのサービスを提供する「暮らし・ビジネス関連サービス事業」に取り組み、基盤事業の隣接領域を開拓。さらに、最終的には電気自動車を活用したモビリティサービスなどにも進出し、電力供給事業を中心とした幅広いサービスのプラットフォームを構築したいと考えています。

――非常に壮大な構想ですね。構想の実現に向けて、現在、どのような取り組みを進めていらっしゃいますか。

岡信氏 : 現在は、組織体制の強化を進めています。2020年7月には、東北電力社内に事業創出部門を新設しました。事業創出部門はスマート社会実現事業を統括する部門です。2024年度までの事業基盤構築を目標に、新規事業に参画するアライアンス先の開拓、オープンイノベーションなどを進めています。

さらに、2021年4月には私が代表を務める東北電力フロンティアを設立しました。東北電力フロンティアは、東北電力の100%子会社で、スマート社会実現事業の実行部隊を担います。東北電力本体ではなかなか実現できないスピード感でパッケージサービスをご提供し、お客さまに新たな顧客体験をお届けするのが、設立の狙いです。

また、東北電力フロンティアは、デジタルマーケティングを全面的に活用する組織でもあり、20〜30代のデジタルネイティブ世代へのサービス展開にも力を入れていきます。

――電力業界には「守り」「堅い」といったイメージもあります。事業創出部門や東北電力フロンティアといった先進的な組織の設立によって、グループ全体の雰囲気に変化はあったでしょうか。

岡信氏 : 社員の意識は、間違いなく変わり始めています。東北電力フロンティアなどの設立によってグループの方向性が示され、社員一人ひとりの意欲が高まったのだと思います。

実際、昨年度、グループ内からビジネスアイデアを募集する取り組みを行いましたが、500件を超える応募が集まっています。今後も、東北電力フロンティアなどの新たな組織が牽引する形で、グループ全体の変革を進めていくつもりです。

そのためにも、新たな組織には、従来の常識に縛られない企業文化が必要です。例えば、東北電力フロンティアでは、原則オフィスカジュアルでの勤務、フリーアドレスの導入、上司の呼称を「さん付け」にするなど、東北電力本体とは大きく異なるルールを敷いています。こうしたルールを通じて、チャレンジングな企業文化を醸成し、将来的には、こうした企業文化のもと育った人材が、東北電力本体の事業部に戻り、グループ全体の変革を担う存在になってほしいと考えています。


若者、医療、農業…プログラムを通じて「顧客の豊かさの最大化」を目指す。

――それでは、「TOHOKU EPCO BUSINESS BUILD」についてお伺いします。本プログラムの概要についてお聞かせください。

岡信氏 : 「TOHOKU EPCO BUSINESS BUILD」は、スマート社会実現事業を促進するため、幅広いパートナーと連携し、新たな価値を創造するプログラムです。ご応募いただいた事業アイデアのなかから採択企業を選出し、2日間(7/16〜17)のディスカッション・ブラッシュアップを経て、インキュベーション・PoCを実施します。

――今回、プログラムのテーマとして、「20~30代向けの生活便利サービス」・「行動変容による予防医療・健康維持」・「持続可能な農業」の3つを掲げていらっしゃいます。この3つのテーマを定めた背景や目的について教えてください。

岡信氏 : いずれのテーマも「お客さまの豊かさの最大化」を目的としています。なかでも、「20~30代向けの生活便利サービス」については、20代〜30代の若い世代に、いかに生活の豊かさを実感してもらうかが主眼になっています。人口減少・少子高齢化が進む東北・新潟地域に、若い世代が定着するためには、快適な暮らしをサポートするサービスが欠かせません。また、就職や家族が増えるなど、ライフイベントが多い20〜30代にとっても、生活便利サービスのニーズは高いはずです。

二つ目の「行動変容による予防医療・健康維持」についてですが、言うまでもなく、健康こそ全てのひとの豊かさの基盤です。東北・新潟地域は自然環境が豊かであり、健康な生活を送れる条件は備わっているのですが、全国的にも平均寿命が短い傾向にあるほか、人口あたりの医師数も少ないなど、医療・健康分野での課題は少なくありません。そこで、行動変容による予防医療や健康維持を、二つ目のテーマとしました。

三つ目の「持続可能な農業」については、東北・新潟地域の農業の発展を目的としています。現在、東北・新潟地域における農業従事者の約7割は60歳以上であり、高齢化や労働力不足、後継者不足といった課題が山積しています。また、農業の発展は、地産地消を通じた豊かな食生活の確立にも通じることから、ぜひ取り組むべきテーマだと考えました。

――プログラムにあたって、東北電力から提供できるアセットについお聞かせください。

岡信氏 : まずは、「顧客基盤の大きさ」です。約500万世帯の顧客基盤を有する企業は、それほど多くありません。そうした規模だからこそ実現できる事業やサービスもあるかと思いますので、パートナーの方々には、そのことを念頭に入れてプログラムに望んでいただければと思います。

また、長年かけて築き上げてきたブランドイメージもアセットになります。東北電力では、毎年、好感度調査を実施していますが、例年とも高い好感度を示す結果が出ています。初めて目にするサービスであっても、東北電力の提供によるものであればご利用しやすいというお客さまも多いはずです。

さらに、お客さまだけでなく、東北・新潟地域における自治体との関係の強さもメリットの一つです。自治体と連携したサービスや事業についても、比較的実現しやすい環境にあるのではないでしょうか。

――最後に、プログラムへの応募を検討している企業にメッセージをお聞かせください。

岡信氏 : 今回のプログラムでは、社会課題解決に熱意を持って取り組む企業さまと、共に事業化を目指したいです。さらに、東北電力グループ中長期ビジョンで掲げる「東北発の新たな時代のスマート社会の実現」に共感していただき、価値観を共有しながら、独自の商品やサービス、技術、ソリューションを開発するのが理想です。そして、その先に、お客さまの豊かさの最大化や、社会課題解決といった大きな目標を実現したいと考えています。


取材後記

電力は、水道やガスと並ぶ、社会インフラの代表格。その供給を担う電力会社には「インフラ企業」というイメージが根強い。電力小売全面自由化など、近年、電力業界が大きく変化しつつあるのは広く知られるところだが、いまだに電力会社に保守的な印象を持っている人は少なくないだろう。

しかし、今回のインタビュー記事を読めば、その印象は覆るに違いない。岡信氏も、現在を「東北電力における第二創業期」と語るなど、数十年に一度の地殻変動が、今まさに電力業界で起こりつつある。

そして、そうした変革期に立ち会えるのは、またとないチャンスと言っていいだろう。今回のプログラムを通じ、東北電力と共創することで、「電力業界における未来のスタンダード」を創出することも可能なのだ。数十年に一度の機会を、ぜひ逃さないことをお勧めする。プログラムの応募締切は6/14だ。また、5/27にはオンラインで説明会が開催される。本プログラムに興味を持った方はまずは説明会に参加してみてほしい。(詳細はコチラをご覧ください)

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)

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