Suica連携、沿線まるごとホテル、建設現場のIoT化―本丸の鉄道事業へも切り込む。スタートアップ×JR東日本の共創対談
計り知れないほど巨大で多彩なリソースを持つ「JR東日本グループ」。鉄道事業を本丸に、生活サービス事業、Suica事業など大きく3つの事業を展開している。これらのリソースを掘り起こし、スタートアップとの共創で新たな価値創出に挑むのが、JR東日本のCVCであるJR東日本スタートアップ株式会社だ。
活動の中心は、「JR東日本スタートアッププログラム」と呼ばれる共創プログラム。毎年4月~翌3月にかけて実施され、年度内にグループのリソースを使って実証実験を行う。具体的なKPI(指標)で成果を図り、好ましい成果が出れば、次のステップである事業化を目指している。実際、これまでには通算57の実証実験、28の事業化を実現しており、共創を強く推進してきた。
4期目となる2020年度も、通常どおりプログラムは行われ、18社のスタートアップが参加(※)。コロナ禍の影響で「今までで一番、正解が見えない戦いだった」とは代表・柴田裕氏の言葉だが、その中身や成果はどうだったのか――今期プログラムに参加した3社(フォトシンス/さとゆめ/ソナス)の代表、および共創プロジェクトを企画・伴走したJR東日本スタートアップの3名に話を聞いた。
※参考記事:Suicaとの連携に挑むスマートロックベンチャーが大賞!―「JR東日本スタートアッププログラム2020」採択18社の共創プラン大公開
「今までで一番、正解が見えない戦いだった」―代表・柴田氏
まず、JR東日本スタートアップ 代表の柴田氏に、2020年度プログラムの全体を振り返ってもらった。
――新型コロナの影響で先行きを見通せない中、プログラムを敢行されました。
JR東日本・柴田氏: 参加企業の募集を開始したのが緊急事態宣言の最中で、「本当にやるのか」と声があがる中でのスタートでした。今までリアルで勝負してきた会社なので、オンラインでの事業共創は初めて。実証実験もままならない状況だったので、メンバーは苦労の連続だったと思います。今回で4期目ですが、これまでで一番ゴールや正解が見えないプログラムだったのではないでしょうか。
一方で、ここまで正解が見えない戦いになると、腹が据わってくるんですね。なので今回は、「自分たちのやりたいことをやろう」という覚悟が前面に出た気がします。JR東日本のポテンシャルを引き出すだけではなく、私たちが本当にやりたいこと、たとえば「こんな状況だけど、旅の火は消したくない」だとか「震災10年目の東北を元気にしたい」だとか、本質を深く考えた1年でした。
▲JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕氏
――初期のプログラムでは周辺領域となる「生活サービス事業」での共創が多かった印象ですが、徐々に本丸の「鉄道事業」へと広げ、今回は初めて「Suica事業」でも共創に取り組んでいます。共創領域の幅を広げられた要因は?
JR東日本・柴田氏: 要因は2つあって、ひとつは小さいながらも成功を生み出せたこと。私たちはJR東日本スタートアップという「出島」を設け、出島でベンチャー企業と共創し、無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」やエキナカ鮮魚店「sakana bacca」などを形にしてきました。成功事例をつくれたことで、JR東日本グループ全体に少しずつ仲間を増やすことができたのです。
もうひとつは、JR東日本グループとのシナジーを重視したプログラムですから、ベンチャー側から「鉄道事業やSuica事業とコラボしたい」という声がたくさん寄せられます。それらの提案から学ぶことも多く、可能性に気づかされているという側面もあります。たとえば今期採択した、セルフケア薬局や鉄道林の活用、沿線単位でのマイクロツーリズムといった発想は、私たちの中にはありませんでした。この両面から少しずつ幅が広がってきていると思います。
――なるほど。今後の展望についてもお伺いしたいです。
JR東日本・柴田氏: 正直なところ、まだプログラムの安定運行はできておらず、手探りなんです。どんな事業がハマるのか掴めていません。ですから、これからも色々なことを仕掛けていこうと思っています。まだまだ「やんちゃしようかな」と(笑)、そんな風に考えていますね。
「プログラム史上初のSuica連携、Suicaで扉を開ける社会へ」―フォトシンスとの共創
ここからは、2020年度のプログラムに採択された3社へのインタビューをお届けする。共創に至った背景や実証実験までの道のり、成果と今後の展開について、各社代表とJR東日本スタートアップの担当者に聞いた。
まず登場いただくのは、プログラムの大賞を受賞したフォトシンスの代表・河瀬航大氏だ。オフィス導入実績5000社を超えるクラウド型の「Akerun入退室管理システム」を展開する同社は、JR東日本の本社ビルにてSuicaIDと連携した入退館システムの実証実験を進めている。これまで難しいとされていたSuicaと初めて連携というこの共創プロジェクトはどのように実現したのか?――フォトシンス・河瀬氏(画面左)と、JR東日本スタートアップの担当者である阿久津智紀氏(画面右)にインタビューを行った。
<共創の概要>Suicaを活用した新たなスマートビル入退館システム(プレスリリース)
▲AkerunとFeliCa(ソニーが開発した非接触ICカード技術方式)の連携はすでに実施済だが、SuicaIDと連携させるのは今回が初めて。自身のSuicaIDを事前に登録すると、ビルの受付を経由せずに、Suicaでフラッパーゲート(セキュリティゲート)を通過できる。
――フォトシンスさんは「三度目の正直」で、今年度採択されたそうですね。
フォトシンス・河瀬氏: はい、かねてから「ICカードで扉を開けたい」という考えを持っていたので、Suicaを保有するJR東日本さんと仕事がしたいと思っていました。そこで起業家の友人に阿久津さんを紹介してもらい、このプログラムにチャレンジすることにしたのです。初めてプログラムに応募したのが2018年度。なので、今回が3度目の挑戦でしたね。
――二度の挫折を経て、今回突破できた理由は?
JR東日本・阿久津氏: Suicaとの連携はやはりハードルが高くて、僕らも水面下で調整を続けてきたのですが、思うようにはいかなかった。そんな中でSuicaの領域で拡大したいというビジョンから外部を連携させる動きが出てきたことが、要因のひとつです。
また、Suicaをもっと生活の基盤にしたいというJR側の課題感もありました。さらにスタートアップなど外部との連携を加速しようという気運の高まりもあったので、その波に乗って今回やっとSuicaとの連携を実現することができたのです。
フォトシンス・河瀬氏: 2018年頃でしょうか、阿久津さんからSuica部門の方をご紹介いただきました。その方は僕らの描くビジョンや可能性に、一個人の立場で非常に共感してくださいました。その後、JR東日本メカトロニクス(※)さんもご紹介いただいて、徐々に共感してもらえる方が増えていきました。
大きな転機があったというよりは、3年かけてじわりじわりと進めてきた印象です。僕らも諦めなかったし、JR東日本さんのほうでも大々的には言えないものの「可能性はあるよね」と、応援していただいた。水面下で希望の炎が消えなかったので、今回の採択につながったと感じています。
※JR東日本メカトロニクス株式会社:Suicaの技術開発・サービス展開等を担うJR東日本のグループ企業。
JR東日本・阿久津氏: 実はJR東日本メカトロニクス社内にも、「新しいことを仕掛けたいけれども、ルールが厳しくて動けない」ともがいている人たちがいて。「何かを突破口に進めたい」という声を聞いていました。そんな仲間を少しずつ集めて「このレベルだったら許されるよね」という落としどころを見つけ、今回の実証実験につなげたという流れです。
――新たに、SuicaIDを活用したビル入退館システムを開発され、本社ビルのセキュリティゲートに導入されました。本社ビルへの導入は大変だったのでは?
フォトシンス・河瀬氏: 阿久津さんをはじめJR東日本の社内の方たちに、力強く応援いただいたからこそ形にできました。たとえば、JR東日本スタートアップが入居するビルに、当社の「Akerun」を先んじて導入いただいたり。でも、それだけだと認知が高まらないので、本社とご調整いただいたり、無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」で使っているゲートを導入させてもらったりです。
システム開発面で大変だったことは、JR東日本さんから求められるセキュリティレベルが非常に高かったこと。僕らはセキュリティの会社なので「軽々クリアできましたよ」と言いたいところですが、そんなことは全然なくて…(笑)。でも「絶対やる」と決めていたので、優先順位を最大に上げ、専任のエンジニアを置く体制で完成させました。
――そんなに…。実証実験の進捗はどうですか。
JR東日本・阿久津氏: 今年3月に正式スタートしましたが、開始1週間程度で約100人の方に登録いただき、使ってもらっています。それに、グループ会社から「こんなサービスをつくりたかった」という声や、「家を建てるときに、このスキームを導入したい」という問い合わせが多数寄せられています。
――今後の展開は?
JR東日本・阿久津氏: まず、JR東日本の本社ビルでしっかりとトランザクションを出すことが1stステップ。2ndステップは、受付システムも含めて完成形に仕上げて、外販できるようにすること。3rdステップは、JR東日本のグループ会社での活用や外販を進めることです。トランザクション毎に課金できることがJR東日本の理想ですから、そういったところを一緒に進めていきたいと思っています。
「地域ぐるみで、沿線を“まるごと”ホテル化する」―さとゆめとの共創
次に登場するのは、全国各地の地域づくりを支援する伴走型コンサルティング会社・さとゆめの代表 嶋田俊平氏。JR青梅線を舞台に、沿線全体をホテルに見立てる沿線活性化事業の実証実験を進めている。注目を集めるこの共創プロジェクトをどのように推進してきたのか?――さとゆめ・嶋田氏(画面右)と、JR東日本スタートアップの担当者である佐々木純氏(画面左)に話を聞いた。
<共創の概要>無人駅から始まるマイクロツーリズム『沿線まるごとホテル』(プレスリリース)
――共創に至った背景からお聞きしたいです。
JR東日本・佐々木氏: 地方創生のヒアリングをしている際に「おもしろい事業者がいる」と、さとゆめの嶋田さんを紹介してもらったことがきっかけです。さっそく八王子支社のメンバーと一緒に、嶋田さんの運営されている山梨県小菅村の「NIPPONIA 小菅 源流の村」へ泊まりに行きました。現地で体験をしてみて、地域に入り込み伴走しながら事業を創り上げていることに、大きな魅力を感じました。そこで、私から「ぜひ一緒に」と声をかけたんです。
さとゆめ・嶋田氏: 小菅村のホテルがオープンして早々、JR東日本さんのような大企業の方たちが、大勢で来られたので驚きました。私も夕食をご一緒したのですが、「いくら儲かる」といった話は一切出ず、私たちの小菅村での7年間にわたる伴走支援や、村の方たちを巻き込むスタイルに共感していただいたのを覚えています。
聞くところによると、八王子支社の方たちも青梅・奥多摩地域に深く入り込んでいて、「過疎高齢化や乗降客数減という課題を抱える青梅線沿線を何とかしたい」という強い想いをお持ちでした。それにもびっくりしましたね。支社の方はその後も何度か小菅村にいらっしゃって、自腹で宿泊されることもありました。そんなJR東日本さんの現場主義な姿勢に感銘を受け、「この方たちとなら、同じ目線で一緒に仕事ができそうだ」と確信したのです。
――東京・多摩地区のJR青梅線を活用した「沿線まるごとホテル」は画期的なアイデアだと感じました。どのように形づくっていかれたのですか。
JR東日本・佐々木氏: 最初は、無人駅の空きスペースを使ったサービスの展開などを検討していたのですが、継続的に維持することが難しいと分かりました。そこで嶋田さんからアイデアをいただいて、無人駅をホテルの受付に使い、小菅村のホテルと組み合わせて、沿線ぐるみでホテルにする今の形にピボットしました。
さとゆめ・嶋田氏: JR東日本さんのアセットを活用することも、もちろん重要な要素なのですが、一方で「沿線まるごとホテル」の本質的な価値は、地域住民や地元の事業者、行政を巻き込んで、地域ぐるみでお客さまをお迎えすることです。それをしなければ、実証実験も本質的ではなくなってしまう。そうお話しすると、すぐにご理解いただけました。
でも、地域を巻き込むことは、そんなに簡単にできることではありません。「半年やそこらで、地域を巻き込めるのか」という躊躇はありました。そんな中、JR東日本さんは「やりましょう」と軽やかで。
「町役場に話を持っていきましょう」「地元の事業者を紹介します」「観光協会の会長さんに挨拶をしましょう」という風に、矢継ぎ早に地域の方たちをご紹介いただき、わずか半年で地域ぐるみが実現できてしまったのです。本当に奇跡みたいな話ですよ(笑)
――奇跡…!具体的に、どのような形で地域住民の方たちが関与されているのですか。
さとゆめ・嶋田氏: たとえば、白丸駅エリアの集落の方にガイドをしてもらったり、ポートおくたまの方にコーヒーを出してもらったり、観光協会会長さんが経営するカフェでデザートをサービスしてもらったりですね。
――なるほど。緊急事態宣言が発令されましたが、取り組みにストップがかかったりは?
JR東日本・佐々木氏: 最初から「Withコロナ時代の新しいマイクロツーリズムを創出したい」という想いで取り組んできたので、緊急事態宣言を理由に止めるような動きは一切ありませんでした。これを諦めると、Withコロナの旅行がすべてダメになってしまうので。
そうではなくて、人が密集しない場所で、自然や食を楽しんでもらうような、新しい旅の形をつくりたかった。ですから、その想いを共有して皆で前向きに取り組みました。
――緊急事態宣言中にも関わらず「完売」し、実証実験の期間を延長されたそうですね。厳しい状況下においても、好評を博している要因はどこにありそうですか。
さとゆめ・嶋田氏: まだ詳しい分析はできていませんが、私たちはマイクロツーリズムを、身近にある美しい風景や美味しい食べ物、丁寧な生き方を、深く味わうものだと捉えています。コロナ禍で、そういった「本質的な暮らしの価値に目を向けよう」という意識が高まっているように感じます。
さらに今、都会では日常自体が非日常になっていますよね。マスクがないと外出ができず、友達と会食もできないわけですから。でも私たちは、かつて日常だったものを提供できている。お客さまは、逆に日常を味わいに来られている気がします。
――実際に宿泊されたお客さまからは、どのような声が?
さとゆめ・嶋田氏: 今のところ非常に満足度は高いです。無人駅チェックインや電車内の専用アナウンスなど、新鮮さを評価する声もありますし、地域のガイドさんによる集落ホッピングも想像以上に好評。それに、ガイドさんがどんどん乗り気になっていて、うちのスタッフはもう出る幕がないそうです(笑)
――素晴らしいですね。最後に今後の展開についてお聞かせください。
JR東日本・佐々木氏: このプロジェクトについては、実証実験自体が難しいチャレンジでしたが、嶋田さんに組み立てていただき、すでに成功だといえるレベルの反響をいただいています。私たちはこれをもとに事業化を推進し、取り組みを沿線全体へと広げていきたいと思っています。
「次世代無線ネットワークで現場のIoT化を実現」―ソナスとの共創
最後に登場するのは、無線通信技術を核とした東大発ベンチャー・ソナスの代表 大原壮太郎氏。熊谷駅や新潟駅周辺エリアを舞台に、無線計測技術を用いたインフラの維持管理の実証実験を進めている。この取り組みを推進できた要因とは?――ソナス・大原氏(画面左)と、JR東日本スタートアップの担当者である俵英輔氏(画面右)に話を聞いた。
<共創の概要>無線計測技術を用いた高効率なインフラの維持管理の実現
――まず共創に至った背景をお伺いしたいです。
JR東日本・俵氏: 私がソナスさんの技術を知ったのは2年半ほど前です。「どこかで事業共創ができそうだ」と思ってはいたのですが、まさに1年前にJR東日本の方から、ソナスさんの技術で解決できそうなペインをもらいました。そこで、私の方からソナスさんにアプローチをしました。ソナスさんからも「それなら、うちのソリューションを提供できそうだ」と言っていただけたので、プログラムを通して共創を進めることにしました。
――具体的に、どのようなペインだったのですか。
JR東日本・俵氏: 大きく2つあって、ひとつはインフラの常時モニタリング設備を更新したいというもの。既存設備よりもコストダウンや小型化、ハードの軽量化を図りたいという内容でした。もうひとつは、建設現場を有線から無線に変えたいというものです。実は、JR東日本の建設現場やメンテナンス現場は、非常にレガシーなんですね。昭和の頃から同じ方法を引き継いでいます。
なぜなら、やはり安全が第一なので「昨日まで安全にできていれば、明日も同じ方法で安全を確保したほうがいい」という考え方なのです。そうした風土がある中で、有線から無線に変更することはハードルが高い。しかし「そうは言っても、変えていきたいよね」という気運がJR東日本社内にありました。そこで、ソナスさんの堅牢な無線システムを使って、「無線でもやれることを証明しよう」という方向で、チームがひとつにまとまったのです。
――俵さんから相談を受けたとき、大原さんはどのようにお感じになったのでしょうか。
ソナス・大原氏: いただいたニーズは、私たちの技術と非常に親和性の高いものだと感じました。少し私たちの想いについてお話しすると、ソナスの事業領域はIoTの要素技術である無線通信です。ソナスは大学発のベンチャーですが、大学でIoTの研究を行っている際、「無線の使いづらさがIoTの足枷になっている」と感じていました。無線の難しさを解決できれば、もっと色々な産業にIoTが浸透していくはずだと。
そうした中で、IoTは様々な技術の組み合わせなので、1社だけで実現できるものではありません。またシーズとニーズのマッチングも非常に重要です。なおかつ幅広い産業のニーズを拾っていかないといけません。JR東日本さんはニーズをたくさんお持ちですし、課題感もお持ちでしたから、率直に組んでみたいと思いました。
――実証実験では、電化柱のモニタリング(熊谷駅付近)と建設工事現場の無線ネットワーク化(新潟駅)に取り組まれました。プロジェクトを進めるにあたって、懸念していたことなどはありましたか。
ソナス・大原氏: 「実証実験で終わるのではないか」という懸念はありました。しかしそこに関しては、俵さんのご尽力で「実証実験に成功したら本番展開しますよね」という念押しのもと、JR東日本の方とお話しを進めていただき、懸念を払拭できました。
それに、当初の私たちの想像とは違って、JR東日本の現場の方たちが「レガシーなものを更新していきたい」という強い想いをお持ちでしたね。さらに新型コロナの影響で、急激なコスト改善に取り組まねばならない状況も背中を押して、皆さんかなり前のめりでした。
JR東日本・俵氏: この取り組みについては、大原さんがおっしゃったように、JR東日本側のメンバーも非常に前向きでした。私も調整局面で苦労することはなく、むしろ「皆でうまく調整してスムーズに回そうよ」という雰囲気がありました。
▲設置工事は鉄道が運行していない深夜に実施されたという。
――共創に取り組む前後で、JR東日本グループの方たちの印象は変わりましたか。
ソナス・大原氏: ガラリと変わりました。JR東日本の現場の方たちに関しては、思ったよりもお若い方が結構な権限、発言権を持たれていること、その方たちがしっかりと仕事を進めていらっしゃることに驚きました。それに失礼ながら「JR東日本のCVCは、こんなにくだけているのか」という驚きもありましたね(笑)
――2箇所で実証実験を行ってみて、どのような成果が得られそうですか。
ソナス・大原氏: 両方ともおおむね順調です。新潟の現場では、これまでにない大きさの無線ネットワークを組んだため不安はありましたが、今のところ安定して動作しています。
熊谷の現場では、既存システムの更新を行ったのですが、以前だと5人がかりで1時間かかっていたところを、2人体制で2~3分程度ですむまで設置の手間を省くことができました。そういう意味で、貢献できているとの実感を持っています。
――最後に、今後の展開についてお聞きしたいです。
JR東日本・俵氏: 今回の実証実験は、レガシーなものをDXする第一歩にしたいとの想いで、大原さんをはじめJR東日本のメンバーと一緒に取り組んできました。有望な結果を残せたので、次は実運用フェーズへと進めたいです。そして将来的には、JR東日本の中のあらゆるモノが、ソナスさんの無線ネットワークを通じてインターネットにつながっている世界を実現したいですね。さらにその先に、スマートシティへの組み込みなども考えうると思っています。
取材後記
今回で4期目となり、生活サービス系の周辺領域だけではなく、徐々に本丸の「鉄道事業」のペインや事業シナジーへも共創領域の幅を広げてきている本プログラム。
3つの共創プロジェクトについて話を聞いたが、共通していたことは、JR東日本スタートアップの方たちはもちろん、実際の現場であるJR東日本グループ社内の方たちも、事業共創に「前のめり」だったこと。日々鉄道事業で社会インフラを支える部隊が、新しいものを取り込みながら、アップデートしていこうとする積極的な姿勢を、取材を通して感じ取ることができた。
また冒頭、柴田氏から『コロナ禍において本当にやりたいことを考えぬいた1年だった』という話があったように、解決したい課題や実現したい世界観などが各チームですり合った上で共創を進めている様子が、非常に印象的であった。
5期目のプログラムはまもなく開始する。次はどのような取り組みが生まれるのか、非常に楽しみだ。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)