株式投資型クラウドファンディングの”気になる疑問”に切り込む――第一人者・出縄氏にTOMORUBA編集部が徹底取材!
近年、スタートアップをはじめとする非上場企業の新たな資金調達手段として株式投資型クラウドファンディングが注目されている。しかし、VCやCVC、金融機関からの資金調達と異なり、日本ではまだまだ先行事例が少ないことも事実だ。
そのため株式投資型クラウドファンディングは、「本当にお金が集まるのか」「将来のIPOに際して支障が出るのではないか」「経営の自由度が失われるのではないか」といった様々な誤解や懸念を持たれがちであり、興味を持っているものの導入に二の足を踏んでいるスタートアップも少なくないという。
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そこでTOMORUBA編集部は、昨年8月に株式投資型クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE Angels」をローンチしたDANベンチャーキャピタル株式会社(以下DAN社)の代表である出縄良人氏にインタビューを決行。出縄氏は、株式投資型クラウドファンディングの前身となった中小企業向け証券市場であるグリーンシートの立ち上げに関わり、多くの非上場企業へのエクイティファイナンスやIPO支援を手がけてきた人物だ。
今回は同分野の第一人者である出縄氏に対し、多くのスタートアップが抱いている株式投資型クラウドファンディングに対する疑問点や懸念点についてTOMORUBA編集部がストレートにお聞きするとともに、「CAMPFIRE Angels」で出資を募るメリットやサポート体制などについても詳しくうかがった。
■DANベンチャーキャピタル株式会社 代表取締役 出縄良人氏
慶應義塾大学卒業後、太田昭和監査法人(現:新日本有限責任監査法人)へ入社。公認会計士として主に株式上場コンサルティング業務に従事。1997年に株式公開専業証券会社であるディー・ブレイン証券株式会社(現:日本クラウド証券)を創業。日本証券業協会の非上場企業向け市場であるグリーンシートの株式公開主幹事で9割を超えるシェアを誇り、2010年までに141社に対して112億円のエクイティファイナンスを支援。上場引受主幹事業務にも進出し14社を上場。2015年DANベンチャーキャピタルを設立後はCVCファンドや株式投資型クラウドファンディングを中心とする新たなエクイティファイナンスのインフラ構築を推進中。
資金が集まるのは、最先端のテクノロジーや社会解決型のビジネス。今後はさらに幅を広げていきたい
TOMORUBA : 今回のインタビューでは、株式投資型クラウドファンディングについての素朴な疑問や懸念点を含めて色々とお聞きしていきたいと思います。それではまず最初に、株式投資型クラウドファンディングと他のクラウドファンディングの違いについて教えてください。
出縄氏 : クラウドファンディング(以下CF)は、あるプロジェクトの実現のために、インターネットを通じて多くの人からの出資を募る仕組みです。一般的によく知られているCFは「購入型」と呼ばれるタイプであり、出資者はプロジェクトが成功した際に製品やサービスを受け取ることになります。
一方、株式投資型CFの場合、出資者は製品やサービスではなく株式を受け取ります。出資側からすると購入型CFは消費、株式投資型CFは投資という違いがあります。
欧米では創業間もない企業に対して個人が資金を提供する「エンジェル投資」が盛んであり、米国には約25万人のエンジェル投資家が存在していると言われています。一人で一社に対して数千万円の出資を行えるような富裕層が中心ですが、「そこまでのお金はないが、エンジェル投資家と同じ気持ちを持って応援したい」と考えている投資家の方々から資金を集めるのに最適なのが株式投資型CFです。
たとえば「CAMPFIRE Angels」では一人10万円から出資をすることが可能です。100人から10万円ずつ出資してもらえば、それだけで1000万円が調達できるわけです。
数年前までは非上場企業が株式で資金調達を行う仕組みとしてグリーンシートという制度があったのですが、それに変わる新たな仕組みが必要であるという議論がなされ、アメリカやイギリスで注目を集めていたエクイティクラウドファンディングを制度化する流れの中で生まれたのが現在の日本の株式投資型CFです。金融証券取引法では「第一種少額電子募集取扱業務」と定義されていますが、日本証券業協会では株式投資型CF名づけました。
TOMORUBA : 投資家の立場で考えると株式投資型CFは購入型CFに比べ、わかりやすいリターンがなく、リスクが高いように思えます。本当に資金が集められるのでしょうか?
出縄氏 : 現状を素直に申し上げると株式投資型CFで資金を集められるケースは多いのですが、投資家のニーズによって資金が集まりやすい案件と集まりにくい案件で明暗が別れてしまっている印象はあります。
現在、株式投資型CFに参加している投資家は、IPO株や上場株と平行して投資している方々が多いため、IPO後に人気化するような銘柄と同じような業種やビジネスモデルの案件に資金が集まりやすい傾向があります。具体的には最先端のテクノロジーを扱っている会社、さらには社会課題解決型のビジネスモデルを展開しているソーシャルなイメージの会社です。
今後は「この会社の製品が好きだから応援したい」「この会社が運営するスポーツチームを長く支えていきたい」といったように、その会社の事業を長期的に応援したいと願う投資家の割合を増やしていきたいと考えています。
TOMORUBA : すでにVCから出資を受けていたり、以前からメディアや著名人によって取り上げられていたりする製品・サービスを扱っているような会社でなければ、株式投資型CFでお金を集めるのは難しいのではないでしょうか?
出縄氏 : VCが投資しているということは、専門家である彼らがその会社や事業を評価していることになるので、投資家からの資金の呼び水となる可能性もあるとは思います。しかし、VCが参加していない企業であっても事業や製品・サービスに魅力があれば株式投資型CFで資金を集めることは十分に可能です。
また、私たちはCFのプラットフォーマーとして、VCと同じように事業計画の妥当性や将来性などを吟味・審査した上で、可能性があると判断したプロジェクトだけを募集案件として掲載しています。「CAMPFIRE Angels」の審査を通過したプロジェクトは、VCから出資を受けられるレベルの魅力があるということなので、そこは自信を持っていただきたいですね。
「CAMPFIRE Angels」利用の詳細と、スタートアップが受けられる多彩なサポート内容
TOMORUBA : 「CAMPFIRE Angels」の場合、プロジェクトの審査はどのようなステップで進められるのですか? また、審査から募集が始まるまでにどのくらいの時間がかかるのでしょうか?
出縄氏 : 企業様から問い合わせを受けた後、当社コンサルティングチームのキャピタリストがビジネスモデルや収益構造などを確認し、マーケットのニーズやマーケットにおける競争力、経営者の資質なども含めた総合的な判断を行います。
もっとも「確認・判断」とは言ったものの、この段階では事業計画のブラッシュアップを支援したり、ビジネスモデルやターゲットの練り込み具合について助言したり、事業や経営に踏み込んだアドバイスやサポートをさせていただくことが多いですね。
コンサルティングチームから審査チームに案件が移る際には、プライマリーデューデリジェンスと呼ばれる一次審査があります。それを通過すると審査部門による本番の審査となります。これは証券会社の上場審査に似ていますが、審査質問書に対する企業からの回答を審査し、最終審査会議を経て募集取り扱いを決定します。コンサルティングチームのアプローチから最終審査会議までは2カ月程度の時間がかかります。
TOMORUBA : 「CAMPFIRE Angels」では募集前からサポートを受けられるということですね。サポート内容について詳しく教えてください。また、利用に際して手数料などもかかるのでしょうか?
出縄氏 : 「CAMPFIRE Angels」では、キャピタリストによるファイナンス・ビジネスサポート、プランナーやマーケターによるマーケティング・IRサポートを提供しています。
ファイナンス・ビジネスサポートについては事業計画に加えて資本政策、株価算定についてもサポートするほか、マーケティング・IRサポートに関しては、事業戦略やマーケティング戦略、募集マーケティングやピッチページ作成、画像・動画コンテンツのディレクションについても支援しています。また、募集後に関しても月次のモニタリングやIR作成、ミートアップ企画など、スタートアップのファイナンスを継続的にサポートしていく体制を整えています。
手数料についてはレーマン方式(成功報酬)を採用しており、募集総額に応じて10〜20%の手数料をいただいています。募集総額が3000万円までの部分は20%、3000万〜6000万円までの部分は15%、6000万円以上の部分は10%。これらを合算した額が最終的な手数料となるため、大型調達でも手数料が膨れ上がることはありません。
2年以内の募集については金額を通算できるほか、期間内であれば他社プラットフォームでの募集実績も通算して適用しています。競合と比較した場合、かなり良心的な料金設定になっていると思います。
株主が増えても上場に支障はなく、経営の自由度が損なわれる心配もない
TOMORUBA : 株式投資型CFで募集を行って目標募集額に到達しなかった場合、資金調達不成立となりますが、その後、VCや金融機関から調達を行う際に悪い影響が残ることはないのでしょうか?
出縄氏 : 資金調達前後の純資産比率の変化によって金融機関からの融資の受けやすさが変わってくることはありますが、基本的には株式投資型CFにおける資金調達の成否が、VCからの出資や金融機関からの融資に影響を与えることはありません。株式投資型CFで資金調達に失敗したことを投資判断の材料にするようなVCは本物じゃないと思いますよ(笑)。
TOMORUBA : 株式投資型CFで資金調達に成功したとしても、その後の上場の際に支障が出るのでは?という噂も耳にします。それは本当でしょうか?
出縄氏 : 日本では株主が多いことのデメリットとして、「株主の中に反社会的勢力が紛れこむ可能性がある」と考える人たちが多いことは確かですが、当社では金融機関や証券会社と同水準のシステムを使って参加する全投資家のチェックを行っているため、株主の中に反社の関係者が入り込むことは有り得ません。それでも万が一反社関係者が入り込んでいることが判明した場合は、当社が株主と結んでいる株主間契約の中の強制買取条項を発動することができます。
また、上場ではなくM&Aのイグジットは、株主が多いと進めづらくなると考えられていますが、株主間契約内の共同売却請求条項により、M&Aの際にも「経営者と共に株を売らなければならない」というルールが定められています。
「CAMPFIRE Angels」では、参加する全投資家と株主間契約を結んでいます。そこには経営株主への契約行為代理権の付与条項も入っているため、前出の強制買取条項、共同売却請求条項なども含め、株主が増えても経営の自由度を奪われるようなことがない仕組みを担保していますし、いかなるイグジットの際にも悪影響が出ることはありません。
TOMORUBA : 投資家の中には早期のリターン回収を望む人も多いと思います。株式投資型CFで資金調達を行うことで、投資家・株主から上場を期待されるプレッシャーが大きくなることはないでしょうか?
出縄氏 : 株主によって考えていることは違いますが、ある程度のプレッシャーを感じることは確かでしょうね。ただ、上場志向の企業であれば、自分たちを律するためにも株主からの期待をプラスに変える努力が必要だと思います。
また、株式投資型CFの場合は一人当たり一社につき50万円までしか出資できないので、株主一人ひとりの株式保有率は数%に過ぎず、経営に多大な影響を与えるような大株主は生まれにくい制度です。株主一人ひとりのシェアが少ないことで、いい意味で「緩く応援してもらえる」ことは、株式投資型CFのメリットの一つであると考えています。
株主管理のDX化によって事務負担を低減する仕組みを提供
TOMORUBA : 株式投資型CFで資金調達が成功した場合、株主名簿の管理や決算情報の公開など、事務負担が増えることを懸念されている人も多いようですが、実際はどのくらい大変になるものでしょうか?
出縄氏 : 上場企業のように株の売買が行われるわけではないので、株主名簿に関しては一度作成してしまえば、以降はそれほど負担がかかることはありません。ただ、株主総会に関しては招集通知を郵送したり、委任状を集計したりといった手間が増えることは確かです。
こうした事務作業の煩雑さを解消すべく、当社は株主管理のDXプラットフォームを運営する株式会社ウィルズと業務提携を行い、「CAMPFIRE Angels」を活用する非上場会社と株主に対してウィルズ社のサービスを提供することになりました。
ウィルズ社のプラットフォームを使うことで招集通知の電子的送付、議決権の電子行使、バーチャル株主総会の開催が可能になります。これから「CAMPFIRE Angels」で資金調達を行う企業様については、最初から電子的な株主管理を行うことができるので、株主管理にまつわる事務作業の負荷について心配する必要はないと思います。
▲「CAMPFIRE Angels」運営のDANベンチャーキャピタル 上場会社向け株主管理サービスのウィルズと業務提携」プレスリリースより抜粋
TOMORUBA : 様々な質問に答えていただきありがとうございました。最後に株式投資型CFを検討しているスタートアップ企業の皆さんへのメッセージをお願いします。
出縄氏 : 株式会社とは経営者と株主の共同事業であり、株主の数だけ成長のパワーが得られる素晴らしいシステムです。日本では株主が増えることを懸念する風潮もありますが、本来、会社のファンが増えることは会社にとってプラスでしかないはずです。私たちは株式投資型CFを広めていくことで、そのような本来の株式会社の素晴らしさを多くの方に知っていただきたいと思っています。
また、昨年4月に日本のエンジェル税制が改正されたことにより、今まで以上に多くの投資家が参加しやすい環境が整いつつあることも、株式投資型CFで資金調達をしていただくメリットになると考えています。
これまでの日本では、企業は上場することで「社会の公器」として認められていた側面がありました。また、ベンチャー企業にとってはVCからの出資を受けることも社会的信用の向上に結びつきます。私たちは株式投資型CFを上場やVCからの出資と同じようなレベルで、活用した会社が社会的信用を得られるような制度にしていきたいと考えています。たとえば株式投資型CFを活用するだけで様々な企業と取引ができるようになる。人材採用がしやすくなる。そんな制度にしていきたいですね。
取材後記
日本では株式投資型CFに対する誤解や懸念も少なくないが、今回の出縄氏へのインタビューによって、改めて様々なメリットが得られる魅力的な資金調達手段であることが理解できた。また、スタートアップにとっては「CAMPFIRE Angels」のようなプラットフォーマーを活用することで、出縄氏をはじめとする多くのプロフェッショナルのサポートを受けられることも心強いはずだ。
1990年代に監査法人から独立した出縄氏は20人の知り合いに声をかけて株主になってもらい、起業のための資金を捻出したそうだ。以来、自らの原体験に基づいた「中小企業の成長を資金面から支えたい」という熱意は今日まで絶えることなく、1997年には金融庁や日本証券業協会と共にグリーンシートという新しい証券市場を生み出し、今日の日本における株式投資型CFの礎を築いた。
出縄氏は、「グリーンシートは141社で終わってしまったので、株式投資型CFでは20万社への支援を目指したい。そこまでいけば全国の中小企業の10%をカバーできる。そんな裾野の広いインフラを作ることが私の究極の目標です」とも語っていた。今後、株式投資型CFが多くのスタートアップの未来につながるインフラとなることを期待したい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)
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