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三重県のスタートアップ支援「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想に迫るー日本の縮図「三重」を舞台に、新たな事業創出へ。

三重県のスタートアップ支援「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想に迫るー日本の縮図「三重」を舞台に、新たな事業創出へ。

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三重の精神を象徴する「常若(とこわか)」―古いものを作り替え、永遠に若々しくあること。その名前を冠した注目のプロジェクトが、現在、急速な勢いで推進されている。

それが三重県の主催する「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想だ。同構想は、三重県がスタートアップ/新規事業支援を通じて、県内に産業のエコシステムを構築することを目指したもの。2020年4月から開始され、国内外から募集した事業アイデアを三重県内で実証する「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」など、様々なスタートアップ/新規事業支援が実施されている

今回、TOMORUBAでは、「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想の全容を明らかにするべく、インタビュー取材を実施。構想をリードする創業支援・ICT推進課課⾧の上松真也氏にお話を伺い、三重県の構想に取り組む背景やそこに懸ける想いを深掘りした。

日本各地の地方自治体が地方創生に取り組む昨今。三重県がスタートアップ/新規事業支援にその活路を見出したのは何故なのか。その理由に迫った。

※以下、三重県の行政組織を「三重県」、地方自治体名を「三重」と区別して表記する。


■三重県 雇用経済部 創業支援・ICT推進課 課⾧ 上松真也氏

2011年経済産業省入省。エネルギー政策や行政改革に従事した後、商務情報政策局において、IoT推進やスタートアップ支援を担当。2017年からカリフォルニア大学サンディエゴ校に留学し、現地のベンチャーアクセラレータに勤務。2020年より現職。

コンテンツリッチな県にも関わらず、「将来に期待を持てない」が三重の大きな課題

――本日は、三重県のスタートアップ/新規事業支援の取り組みについて、お伺いします。まずは、取り組みの背景となる、三重の現状や課題について教えてください。

三重県・上松氏 : まず、三重の特徴として挙げられるのが「コンテンツリッチな県」だということです。伊勢神宮、熊野古道、鈴鹿サーキット、猿田彦神社、夫婦岩…などなど、県内の観光地を挙げれば枚挙に暇がありません。しかし、そうした豊富なコンテンツを有しながらも、三重の全国的なプレゼンスはそれほど高くない。この現状は、個人的にも「もったいない」と感じています。

一方で、県内の産業界に目を向けると、「将来に期待を持てない」という問題があります。三年ほど前、県内の中小企業4000社と県外の優良な中小企業1000社に同一のアンケートを実施し、その結果を比較するという分析調査を行いました。そのなかで「将来、期待する産業分野はなにか」という質問をしたところ、県外の優良中小企業は「AIやICTなどのIT分野」という回答が最多なのに対して、県内の中小企業は「特になし」が最多回答でした。三重は製造業が強く、安定した産業基盤を有しています。しかし、その基盤を支えている産業界の方々が、県内産業の将来に期待を持てないというのは、憂慮されるべき事態です。

また、他の地方と同様に、三重においても10代、20代の若い世代の流出が進んでいます。進学や就職のタイミングで東京、大阪、名古屋といった大都市に移り、三重には戻らないという方も非常に多い。こうした人口流出についても、若い世代にとって期待できる産業が少ないというのが、要因の一つになっています。そのため、現役世代の方にも、若い世代の方にも、将来の希望を与える魅力的な産業を創り出すのが、現在、三重県が取り組むべき課題だと考えています。

――そうした背景から、スタートアップや新規事業への支援に活路を見出しているわけですね。現在、県内におけるスタートアップや新規事業の立ち上げの状況はいかがでしょうか。

「ゑびや」、「浅井農園」など第二創業という形で新しい事業の立ち上げに成功する事例も。

三重県・上松氏 : 現状、ゼロイチで起業されたスタートアップは多くありません。しかし、近年、第二創業という形で新規事業を立ち上げ、一定以上の成果を残す事業者が、少しずつ出始めています。

伊勢神宮近くで、老舗の食堂や土産物店を営む「ゑびや」は、AIやクラウドの技術を用いた精度の高い来客予測システムを構築し、経営改善や業務効率化に成功しています。また、津市に本社を構える「浅井農園」は、デンソーと連携し、ICT技術を活用した農産物栽培の生産性向上に取り組んでいます。

そのほかにも、これまで蓄積した経営資源を活用し、二代目、三代目の若い事業者の方々が新規事業を創出するという取り組みがいくつか実現しています。

「産業の自律的な成長・発展・再生産のエコシステム」の創出が目標

――次に、具体的なスタートアップ/新規事業支援の取り組みについてお伺いします。現在、三重県は「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想を掲げています。この構想の概要について教えてください。

三重県・上松氏 : 「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想は、三重の資源を活用したスタートアップや新規事業が、自律的に成長・発展・再生産される仕組みの構築を目指すものです。構想の実現に向けては5段階のフェーズを想定しています。

まず、フェーズ0が「機運醸成」です。チャレンジを奨励する雰囲気やスタートアップへの好意を醸成するため、高校生向けの起業家講演会を催したり、県内起業家たちの事業成果報告会を広く情報発信したりしています。

次に、フェーズ1が「新規事業のタネと畑の発掘」です。課題や事業アイデアは有しているものの、どう動いていいか分からない方々を、県外の有識者を始めとしたメンターに引き合わせ、具体的な事業計画に落とし込んでいきます。

フェーズ2は「新規事業の磨き上げ」です。フェーズ2では、三重県としても人的・資金的なサポートをしながら、PoCなどの社会実証・実装の取り組みを進めていきます。国内外から募集した事業アイデアを三重県内で実証する「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」は、フェーズ2に位置付けられています。

さらに、フェーズ3の「事業化・資金調達」では、事業の成立を目指し、民間からの資金調達にのぞみます。ここで三重県は、資金提供する金融機関と連携協定などを結び、県内のスタートアップや新規事業との間を取り持つ役割を果たします。

そして、最後にフェーズ4の「エコシステムの構築」では、フェーズ3を経た事業者がさらに新たな事業を生み出したり、後進を育てたりして、自律的に三重経済が活性化される状況を想定しています。

以上が「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想の全体像です。現状としては、フェーズ0〜フェーズ2を手掛けている最中であり、フェーズ3以降については体制構築を急いでいます。


「事業が次々と生まれるエコシステムの構築」というのは、非常に壮大な目標ですから、2、3年といった期間で実現できるものではありません。しかし、フェーズ1〜フェーズ2の取り組みは、比較的、短期間でもゴールに到達できますし、その成功がエコシステムの基盤になります。そのため、三重県としても、私たち「創業支援・ICT推進課」が中心となって、スタートアップ/新規事業支援やデジタル人材の育成に積極的に取り組んでいるところです。

「三重は日本の縮図」―三重で実証を行うメリットとは?

――では、三重県におけるスタートアップ/新規事業支援の強み、または事業者に提供できるアセットについて教えてください。

三重県・上松氏 : 三重県では、県内の事業者だけでなく、「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」などを通じて、県外のスタートアップや新規事業も呼び込み、エコシステム構築の取り組みを活性化させています。

その際に、アピールポイントとして強調しているのが「三重は日本の縮図」だという点です。三重には農林水産業、製造業、観光業と、一次から三次までの様々な産業が根付いています。また、県土が南北に長く、四日市のような製造業中心の都市部もあれば、伊勢市のような観光業が中心となった地域、さらに東紀州には過疎化が顕在化した地域もあります。また新幹線や空港がないため、交通移動や物流にも課題を抱えています。

つまり、三重には、日本における生活様式や社会課題が凝縮されています。そのため、もし仮に三重で事業が実証・実装されれば、それは即ち、日本全国に展開可能な事業であると言えるわけです。これは「三重だからこそ」の特別なアセットだと考えています。

また、三重県が主体となった支援ということもあり、県内の事業者からの協力が得やすいというのも強みの一つです。例えば、「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」を推進するなかでも、県外の事業者の方から「参入障壁が高い業界からは、なかなか協力が得られない」という話をよく耳にしました。しかし、三重県の場合、私たち県の職員が実際に事業者の方々の元に出向き、協力を取り付けるところまで支援しているので、参入障壁が高い業界とも連携がしやすいというメリットがあります。


――これまでのスタートアップ/新規事業支援のなかで、特に手応えを感じている取り組みを教えていただけますか。

三重県・上松氏 : 手応えを感じている取り組みは数多くありますが、代表的な例として、二つをご紹介します。

一つ目は、楽天さんが実施した、ドローンによる物流実証実験です。三重県では以前から「空の移動革命」と称して、「空飛ぶクルマ」を活用した社会課題の解決及び新規事業の創出に取り組んでいました。その一環として、志摩市の間崎島という人口約70名の離島に、生活物資を運ぶという取り組みを令和元年度、令和二年度と二年連続で行っています。令和二年度に関しては、三重県からの資金的な支援はありながらも、有料の配送サービスとして展開することに成功しています。

この取り組みを、島民の皆さんは非常に喜んでくださっていますし、だんだんと事業がステップアップしていく手応えを感じています。来年度、再来年度にはさらに事業として完成度の高いものになることを見込んでいて、個人的にも非常に期待を寄せています。

二つ目は、株式会社LEOが運営する「AOU no MORI ~ CO-CREATION SPACE ~」の取り組みです。この施設は、三重郡菰野町のキャンプ場とタイアップして開発したもので、スタートアップや起業家などが集うコミュニティスペースとして利用されています。起業家同士のネットワークの場であるだけでなく、事業開発に関する教育が受けられたり、事業の実証・実装の場として利用できたりと、三重県におけるスタートアップ/新規事業支援の拠点になり得ると期待しています。

エコシステムを構築するには、人材の育成が重要です。県内の起業家を育成するうえで、やはり最も頼りになるのは、三重出身の県外で成功されている先輩起業家や、三重にゆかりのあるクリエイティブ人材です。株式会社LEOの代表を務められている粟生万琴さんは三重出身で、以前から三重で起業家を育成する場を作りたいと思われていたようで、その一つの形として「AOU no MORI ~ CO-CREATION SPACE ~」を立ち上げられました。こうした県外で成功された先輩起業家が、三重に戻って後進を育てる場を設けるというのは、エコシステム構築の大きな後押しになると見込んでいます。

エコシステム実現に向けて。空の移動革命など、来年度以降は「選択と集中」を加速

――本日は、創業支援・ICT推進課のメンバーの方にも取材にご同席いただいています。皆さんから、スタートアップ/新規事業支援に懸ける想いをお聞かせいただければと思います。

三重県・西尾氏 : 「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」では、県内の技術やリソースだけでは育たない先進的な事業に集まっていただき、その実証・実装が全国的に注目を集めることで、エコシステムが少しずつ出来上がり、サイクルが回り始めていると実感しています。ゆくゆくは、エコシステムのサイクルが自律的に回ることを目指していますので、私自身としてもその目標に向けて、楽しみながらスタートアップ/新規事業支援に取り組んでいくつもりです。

三重県・矢形氏 : 先ほど上松が申し上げましたが、現在の三重の課題として「若い世代の県外流出」があります。私は「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想に取り組むことで、、県外に出て行ってしまった人材が、三重に戻ってくるきっかけ作りになり得ると考えています。そうした意味では、私たちのスタートアップ/新規事業支援は、三重の将来を支える事業だと言えますので、今後も引き続き、取り組みに注力していこうと思います。


▲左から、三重県 雇用経済部 創業支援・ICT推進課 西尾氏、矢形氏

――最後に、上松さんにお伺いします。「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想の、今後の展望について教えてください。

三重県・上松氏 : 昨年度までは様々な分野に手を広げて支援を行なっていましたが、いよいよエコシステム構築を視野に入れて、具体的な分野に取り組みを収斂させていく必要があります。

そのなかで、例えば、「空の移動革命」や、三重が得意とする農林水産業や観光業の付加価値を高める取り組みに、リソースを集中させていくことになるかもしれません。そして、その先に、それぞれの分野のエコシステムが構築されることを目指します。来年度以降は、そのための「選択と集中」の時期になると見込んでいます。

取材後記

上松氏は2017年から約2年間、米・カリフォルニア州サンディエゴのベンチャーアクセラレータで勤務経験があるという。今回の取材で印象的だったのは、その当時の経験を踏まえ、上松氏が日本の地方自治体の現状について語ったことだった。

「サンディエゴは、シリコンバレーほどではありませんが、スタートアップのエコシステムが確かに構築されていました。しかし、それはここ10年〜20年ほどの風景です。それ以前、サンディエゴがどのような地域だったかといえば、大企業の誘致で経済振興を図っている状況でした。つまり、日本の地方自治体とかなり似た境遇にあったわけです。そのことを知ってから、私は日本でもエコシステムの確立は可能だと思うようになりました」(上松氏)

壮大な目標に思える、「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想。しかし、それがある一つの揺るぎない確信のもとに推進されていることが分かった。

本日3月10日には、「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想の取り組みの一つであるピッチコンテスト「Update Pitch Contest」が開催される。オンラインでの視聴も可能なイベントであるため、三重県のスタートアップ/新規事業支援における「本気度」に触れてみたい方は、是非試聴をお勧めする。

こちらにて配信▶ https://youtu.be/t4DcLfrn8D8

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)


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  • 大塚菜美

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