【野村不動産×ベルフェイス】出会いのきっかけは手紙!?スタートアップが大企業との繋がりを作る好手とは
日本経済の再成長のために、スタートアップや大手企業、アカデミア、行政などの協業・共創をプロデュースするべく、成長産業カンファレンス『FUSE』。フォースタートアップスが主催する同イベントには数多くの注目スタートアップが登壇し、オープンイノベーションのリアルについて語りました。
今回は、その中で行われた「営業DX実現に向けたスタートアップと大企業の挑戦、導入に向けた両者のリアル」をテーマに、オンライン営業システム「bellFace」を手がけるベルフェイスと野村不動産アーバンネットによる対談の様子をお届けします。
対面営業の文化が根強く残る不動産業界において、いち早くオンライン営業に取り組んだ野村不動産アーバンネット。いかにしてスタートアップと協業し、営業のDXを果たしてきたのか、モデレーターであるeiicon company 代表の中村がそのTipsを引き出しました。
<登壇者>
コロナ前から下降線をたどっていた不動産業界
eiicon・中村:まずは野村不動産アーバンネットさんがオンライン営業を始めたきっかけについて教えて下さい。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:営業方針を見直した背景には、マーケット環境の大きな変化があります。これまでマンションの販売は新築がメインでしたが、2006年を境に中古物件と成約数が逆転し、中古物件を買うのが普通の時代が訪れたのです。
新築物件の供給戸数は減り、平均価格も上がっているため、営業の現場では厳しい戦いが強いられていました。そのような状況の中で、営業の仕方を変えなければと、3年前から営業のDXに取り組んできたのです。
eiicon・中村:営業のDXはどのように進めていったのでしょうか。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:2年ほど前には、全社的にDXを推進する「デジタルビジネスラボ」というチームを組成し、様々なテーマでDXを進めてきました。私はその中で営業のDXを担当し、メンバーとの議論を続けながら、役員などを巻き込んでいきました。
当時はまだzoomに繋がるだけでも新鮮に感じるほど、デジタル化の進んでいない時代です。その中で、まずはお客さんがモデルルームに来る前に、オンラインで接点を作れないかと試行錯誤をしていたのですが、小さな取り組みしかできませんでした。
eiicon・中村:小さな取り組みとはいえ、コロナ以前からオンライン化を始めていたのですね。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:仰るとおり、コロナ以前からオンライン化を進めていたものの、本格的に取り組み始めたのはコロナの感染が拡大してからです。その時には当社だけではなく、業界全体がオンライン営業を取り組み始めましたが。
コロナ前から取り組んでいた私達としては、コロナに便乗した他社に負けたくない気持ちもあり、新しい価値を提供しようと躍起になりました。一方で、社内に目を向けるとコロナのおかげで、組織の意識は統一しやすかったと思います。
普段使っているモデルルームの説明資料も、オンラインで使えるように作り直すなど、営業の質を一気に高めました。アンケートで評価をもらえるようにするなど、全社的に営業のDXを進められましたね。
eiicon・中村:当時はまだbellFaceを取り入れていなかったのですか。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:はい、当時はまだ自前のシステムを利用していました。しかし、一回目の緊急事態宣言が解除され、再びモデルルームへの来客が増えると、それに伴いオンラインでの営業が減っていったのです。このままではまた元に戻ってしまうと思い、以前から営業してくださっていたベルフェイスさんに全面的に相談することにしました。
コロナが起爆剤となったベルフェイス。「手紙」でチャンスをものにする
eiicon・中村:ベルフェイスさん側の視点からも、野村不動産アーバンネットさんと共創に至った経緯を教えて下さい。
ベルフェイス・西山氏:まずは野村不動産アーバンネットさんとの関係の前に、不動産業界との関係からお話していきますね。一回目の緊急事態宣言が出された時、私達は有料サービスを無料で3ヶ月間使えるキャンペーンを実施しました。その時に一番問い合わせが多かったのが不動産業界だったのです。
eiicon・中村:コロナによって市場環境がいい方向に変わったのですね。
ベルフェイス・西山氏:そうですね。私達のサービスの一番の競合は、同業他社ではなく「訪問営業」です。コロナ以前は「私達はまだリアルで営業するから」と断られることも多かったのですが、コロナによって訪問できなくなり、自然とオンライン営業のニーズが高まりました。
不動産業界も、コロナ以前は全く相手にされなかった業界です。だからこそ、これを機に開拓しようと様々なアプローチを行いました。野村不動産アーバンネットさんも含めて、時には役員に向けて直筆の手紙も認めましたね。
eiicon・中村:大企業にアプローチするのに、手紙は効果的なのでしょうか。
ベルフェイス・西山氏:大手へのアプローチが数ある中で、手紙はウェビナーと並んで最も効果的な手法だと思っています。私達もセールスフォースさんから手紙でのアプローチ方法を学びました。高級な和紙を使い、バイネームで手紙を送るんです。
その方の経歴や想いを調べた上で、どんなところに共感し、自分たちのサービスがどのように貢献できるのか手紙を認(したた)めるのです。ちなみに私達は手紙を「書く」ではなく、「認める」と言っています。思いを込めて認めた手紙は、思いの外返信があるものです。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:私達も、どうしても接点を持ちたいお客様がいた時は、手紙を活用しますね。もらう立場だとしても、自分のことを考えて書かれた手紙は嬉しいものです。営業の手段と分かっていても、相手の気持ちになって書かれた手紙は十分効果があると思います。
組織を変えていくには「小さな成功事例」の積み重ねが大事
eiicon・中村:両社の取り組みをどのように進めていったのか、具体的におしえてください。
ベルフェイス・西山氏:私達がご相談頂いた時は、野村不動産アーバンネットさんの中でオンライン営業に肯定的ではあるものの、それが100%ではないという状態でした。ですので、若手のイノベーターを集めてタスクフォースを作ってもらったのです。併せて、うちでも専属のサポートチームを編成しました。
DXが進んでいくと、徐々に一人二人とツールを使いこなして結果を出していきます。それにより、オンライン営業に懐疑的な姿勢を見せていた人も徐々に態度が変わっていきました。組織を大きく変えていくには、小さな成功事例を積み重ねていくことが重要ですね。
eiicon・中村:洞口さんとしては、ベルフェイスさんと共創してどうでしたか。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:こんなに親身になってクライアントのこと考えてくれる会社は他に知りません。チームを組んでからは、定期的にミーティングもしたのですが、困っていることがあればいつでも気軽に相談させてもらいました。社内で意見を交わしてきたつもりでしたが、ベルフェイスさんに相談したことで、飛躍的にDXが進みましたね。
ベルフェイス・西山氏:野村不動産アーバンネットさんは事前に他のツールも使われていたので、私達としてもサポートしやすかったです。私達に対しても、ただのツール屋としてではなく、真剣にパートナーとして向き合ってくれたのも嬉しかったですね。
そういう会社は全力で支援したいと思いましたし、業界のロールモデルになってほしいと思いました。業界を代表する企業がDXに成功しなければ、業界全体が変わることはありません。そういう意味でも野村不動産アーバンネットさんの今回の取り組みは非常に重要な意味があったと思います。
着実に反響が出始めている野村のオンライン営業
eiicon・中村:ベルフェイスさんに相談したことで、営業の設計はどのように変わったのでしょうか。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:モデルルームに足を運んでもらう前に、ウェビナーに参加してもらい、その後1対1のオンライン接客を経てから、モデルルームに足を運んでもらうように設計しました。ちなみにウェビナーはZoom、オンライン接客にはbellFaceを利用しています。
eiicon・中村:営業のDXに成功したのですね。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:まだDXに成功したとは言えませんね。今でも直接モデルルームに足を運ぶお客さんの方が多く、オンライン営業が浸透しているとは言えません。まだ社内にも、オンライン営業の必要性を疑問視する声も上がっていますし、私自身何度も心が折れそうになりました。
しかし、一方でオンライン営業による反響があるのも事実です。例えばオンライン営業を受けてモデルルームに訪れたお客さんの中には、「オンラインで話を聞いて、モデルルームをみるのがとても楽しみになりました。部屋を見るためではなく、決断するために伺います」と言ってくれたお客さんもいます。
eiicon・中村:オンライン営業をしてモデルルームに来ないお客様もいるのでしょうか。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:ウェビナーにご参加いただいたお客様の約半分はモデルルームに訪れません。しかしそれはポジティブに捉えていて、「なんとなく見に来た」というお客さんが減り、「目的を持って来た」というお客さんが増えました。お客さんにとっても私達にとっても、時間をより有効に使えるようになったと思います。
ベルフェイス・西山氏:私としては、不動産の営業を直接受けなくて済むようになったのも、オンライン営業の大きなメリットだと思います。モデルルームに行ったことがある人は分かると思いますが、行くと必ず2時間も3時間も話を聞かされます。
加えて不動産の営業は強いので、嫌になる時もあります。オンラインなら営業の圧も感じないので、気軽に話を聞けるのも大きな価値だと思いますね。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:実際にそのような感想をくれたお客様もいました。「これまでモデルルームを見る度に時間をとられていたので、事前にオンラインで話が聞けてよかった」と感謝の言葉を頂きました。数字としては、まだまだ大きな成果とまでは言えないものの、お客様に新しい価値を届けられていることは確かだと思いますね。
eiicon・中村:今後の取組への意気込みについても教えて下さい。
野村不動産アーバンネット・洞口氏:今はまだ少人数での取り組みなので、これから全社的に広げていくのが今後の課題です。まだ社内ではリアルでの営業が根強く残っており、お客さんもそちらのほうが多いです。気持ちが折れそうになる時もありますが、家を探しているお客さまに新たな価値を届けるためにも、覚悟を持って取り組みを進めていきたいと思います
eiicon・中村:西山さんから、営業のDXを考えている企業へのメッセージをお願いします。
ベルフェイス・西山氏:コロナがあろうとなかろうと、生産性の高い営業手段を探すことが、全ての企業に求められています。そして、このコロナの時代は、今の営業方法が本当に自社にとって最適なのか見直す、いい機会になると思います。今の時期だからこそ最適な営業方法を見定め、組織化に向けて尽力いただきたいと考えています。そして私達としても野村不動産アーバンネットさんのように、新しい営業方法に果敢に挑戦する企業を本気で支援していきたいですね。
また、これはスタートアップに対するメッセージになりますが、どんな大企業にも洞口さんのようなイノベーターがいるはずです。そういう人との出会いは多くの学びを与えてくれます。もし「こんな大企業に手紙を送っても無理だろう」「アプローチするだけ無駄かも」と思っている暇があったら、一度でいいから手紙を出してください。大企業は思った以上に困っていることがあるので、有益な情報さえ提示できれば繋がれるはずです。
取材後記
組織が大きくなればなるほど、様々な考えを持つ人がいるもの。古いやり方を好む人もいれば、危機感を持って新しいやり方を取り入れる方もいます。西山氏が言うように、どんな大企業にも洞口氏のようなイノベーターはいるはずです。スタートアップが大企業にアプローチする際に考えるべきは「どのように」ではなく、「誰に」も忘れてはいけないでしょう。
どんなにテクノロジーが進化しようとも、結局ビジネスを作っていくのは人であることを、今回の対談を聞いて改めて気付かされました。「大企業」という看板だけで人を見るのではなく、「誰と仕事をしたいか」を考えることがオープンイノベーションを成功させるために必要なのかもしれません。
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(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)