東海3県の経済とくらしを支える東邦ガスが、初となる共創プログラムを始動!オープンイノベーションの取り組みの展望を聞く
都市ガス大手3社のひとつで、東海3県(愛知・岐阜・三重)において地元経済に貢献する「東邦ガス」――。東海3県(愛知・岐阜・三重)に立地する企業や一般家庭向けに、ガスや電気などのエネルギーを供給している。1922年に設立された同社は、まもなく100周年を迎えるが、その長い歴史の中で東海3県の経済発展に大きく寄与してきた。現在では、約250万件のお客さまに都市ガスと電力を、約60万件のお客さまにLPGをお届けしている。
その東邦ガスが、同社初となる共創プログラム「TOHOGAS ACCELERATOR PROGRAM 2020」を開始する(応募締切:12/11(金))。スタートアップをはじめとした様々な企業からアイデアと技術を募り、同社の東海3県に広がるネットワークとビジネスデベロップメント力を活かして、新規事業を創出することが狙いだ。募集テーマは、「東海3県の『ものづくり』のスマート化を実現」と「医療・福祉分野のDXを支援し、地域の利用者の『くらし』の質を向上」の2つとなる。
TOMORUBA編集部ではプログラム開始に先立ち、運営を担うイノベーション推進部長(執行役員) 小野田久彦氏と現場をリードする世古純基氏にインタビューを実施。共創プログラムを開始する理由や2つのテーマを設定した背景、プログラムへの参加メリットなどについて話を聞いた。
■東邦ガス株式会社 執行役員 イノベーション推進部長 小野田久彦氏
入社後、約20年にわたり業務用営業に従事。その他、人事マネジャーや出向にて中部国際空港(セントレア)の建設に携わるなど、幅広い経験を持つ。2019年4月の「イノベーション推進部」発足時より同部門を牽引。
■東邦ガス株式会社 イノベーション推進部 デジタル変革グループ 世古純基氏
入社後、業務用営業部門にて病院や大学を中心とした民生用のお客さま営業に従事。2020年4月より現職。同社初となる共創プログラム「TOHOGAS ACCELERATOR PROGRAM 2020」の運営リーダーを務める。
現場の合理化に資する新たなソリューションを
――まず、御社を取り巻く市場環境と、共創プログラムを開始する背景についてお伺いできますでしょうか。
小野田氏: 当社を取り巻く市場環境について、大きく3つの変化が挙げられます。1つ目は、電力・ガスの小売自由化によって、エネルギー間の競争が今まで以上に激化していること。2つ目は、人口減少や工場の海外移転によって、エネルギー需要の安定的な増加を見込めなくなったこと。
3つ目が、低炭素・脱炭素化に向けた社会的要請が高まっていることです。ここ10年・20年、都市ガスは「二酸化炭素の排出が少ない、環境に優しいエネルギー」として伸びてきました。しかし、低炭素・脱炭素という時代の要請に対して、今後、どう捉えていくべきかが大きな課題です。また、コロナの影響も見極める必要があります。
このように、先の見通しが困難な現状だからこそ、会社としても新しいことにチャレンジしていかねばなりません。都市ガスや電気などのエネルギーに加えて、地域に根差した当社だからこそ提供することができる新しい「価値」をお客さまに提供し貢献する。そういったことに取り組まないと、私たちの存在感が弱まっていく可能性もあります。こうした考えから、今回の共創プロジェクトを始めることを決めました。
――ガスや電気だけではなく、地域に密着したインフラ企業だからこそ提供できる新しい「価値」をお客さまに提供していきたいと。
小野田氏: そうです。これまで、私たちはエネルギーを届けることで、地域の皆さまに貢献してきました。たとえば、ご家庭なら料理ができたり、工場なら様々な熱源に使えたりといった貢献です。
こうした従来のエネルギー供給という形に加えて、お客さま視点に立ってもう一歩踏み込んだソリューション・価値の提供が求められてきていると感じています。
私たちガス会社は、地元に密着し、地域の方々に対していかに貢献するかが重要です。エネルギーをお届けしているお客さまに対し、常日頃お伺いしているお客さまの課題を解決すべく、パートナー企業としてのソリューション提供を形にしていきたいと考えています。
▲東邦ガスの主な事業内容(「会社案内2020」より抜粋)
テーマは、「ものづくりのスマート化」と「医療・福祉分野のDX」
――今回のプログラムでは、「ものづくりのスマート化」と「医療・福祉分野のDX」の2つを募集テーマとして設定されました。それぞれの背景についてお聞かせください。
小野田氏: まず、「ものづくりのスマート化」についてですが、東海3県はご存知の通り「ものづくり」が強いエリアです。大手自動車メーカーをはじめとした製造業が、この地に根づいています。大企業もあるのですが、中小規模の高い技術力を持った会社も数多くあり、製造業としての裾野が非常に広い地域だと言えます。こうした土壌があるので、必然的に私たちの法人のお客さまにも製造業が多い。
製造業の皆さんは色々な悩みをお持ちで、当社としてもエネルギー周辺で様々な提案をしてきました。しかし、私たちだけでは提案できることには限界があります。ですから、テクノロジーやアイデアをお持ちの方たちと一緒に、製造業のお客さまに貢献できる提案をしていきたい。これが、「ものづくりのスマート化」をテーマのひとつに据えた理由です。
――世古さんにもお聞きします。以前、業務用営業部門にいらっしゃったそうですが、製造業のお客さまから、どのような声が挙がっていましたか。
世古氏: 製造業の方々は、従来の生産計画や受注状況に応じた生産を行うことに注力しており、設備投資などもより量産型の設備や、新商品開発など、「ものをつくる」という視点に集中しがちです。もちろんそれが本業ですから、当然のことですし、モノづくりの視点からはこれも一つの正解だと思います。
一方で皆さんが課題として認識されていることの多くは、人口減少などの社会的な課題をとらえた視点での生産ラインの効率化や、人の仕事の流れの効率化、といった声が上がりますが、こういった分野への投資はスキルやノウハウを持っている方が少ないことや、効果や評価の手法がお客さまの中で確立されていないこと、また先に申し上げた通り設備投資が優先される傾向が強いがゆえに進まないという実態があります。
例えば簡単な例を挙げると、実際に見てきた現場の中では、今も紙での受発注や、勤怠管理なども多く行われています。こういった分野も効率化できる一つだと思います。
こうした課題に対し、我々は、お客さまの経営層もしくはそれに近しい方々との接点を有しており、ノウハウや評価方法などを打ち込むことは可能ですが、課題を解決するためのソリューションが不足しています。
ぜひとも効率化に資するアイデアや技術、サービスをお持ちの方と提携し、東海3県のものづくりをさらに活性化していきたいと思います。
――なるほど。2つ目のテーマである「医療・福祉分野のDX」は、どういう背景から設定を?
小野田氏: 病院や福祉施設においては、これまでは有事の際のBCP(事業継続計画)が重要視されており、当社もこれまで医療福祉のお客さまのBCP向上に貢献するため、ガス空調やボイラー、ガスコージェネレーションシステム(※1)など、エネルギー設備を提案してきました。これらの設備を組み合わせることで、災害時にも自立した事業継続が可能となっています。
今後、高齢化や生産人口の減少が進む中、医療従事者の労働環境や待遇はますます悪化すると予想され、効率化とコスト削減、ひいては働き方改革が医療・介護現場の急務となっております。またコロナの問題もあわさり、より課題が複雑化してきています。
こうした医療福祉分野に従事する方々の効率化を実現するサービスを提供することで、地域のひとびとの暮らしを支えたいという思いから「医療・福祉分野のDX」を2つ目のテーマに設定しました。
※1: ガスコージェネレーションシステムとは、ガスエンジンやガスタービンで発電するとともに、排熱を回収するシステム。
世古氏: BCPというと災害時の対応がイメージされますが、新型コロナウィルス流行後の現在では、平常時に医療・介護体制をどう維持していくか、いわゆる「平時のBCP」も重要課題だと伺っています。以前から医師・看護師・介護士の人材不足は大きな課題として取り上げられておりますが、新型コロナウィルスの流行により現場の職員自身が感染することで、動ける人材が更に減っていくという新たな課題も顕在化しております。
限られた医療・介護人材を守り、使命を果たし続けていただくために感染対策や業務効率化が求められております。その中で、例えばオンライン面会や予約のシステム化など、「医療・介護安全」と「業務効率化」の両面に資するようなサービスを生み出すことで、現場の方々を支えたいと思っております。
東海3県に広がる、「ネットワーク」と「知名度」が強み
――プログラム参加企業が、御社と共創に取り組むメリットは、どのようなところにありますか。
小野田氏: 東海3県(愛知・岐阜・三重)に、250万件強のお客さまを持っていることが最大の強みです。エネルギー供給を通して地域のくらしを支えてきたことで、当社の存在はこのエリアで十分に認めてもらえていますし、強固な信頼関係を構築できています。東海3県を代表するガス会社として、十分な知名度とブランド力があります。こうした顧客基盤や知名度が、参加企業にとってメリットになるのではないでしょうか。
――東海3県に進出を図りたい企業にとって、大きなメリットになりそうですね。世古さんはいかがでしょうか。
世古氏: 加えて申し上げると、お客さまのもとに足を運んでいる営業担当がたくさんいることです。現場に入り込み、関係を築けているからこそ、お客さまのリアルなニーズを拾えています。リアルな現場を知っていることは、当社だからこそ提供できるアセットだと思いますね。
また、当社自身もグループウェア導入などの効率化を進めており、組織に定着させる上での課題やポイント、導入したことによるメリットをユーザー目線でお伝えすることもできます。更にIoT対応ガス機器の開発や、省エネ提案などのソリューション業務で培った技術やノウハウも提供可能です。また、ご家庭のお客さまとは専用の会員サイト(Club TOHOGAS)やLINEなどデジタルでの接点もあり、そちらも活用いただけます。
――本プログラムを運営する、「イノベーション推進部 デジタル変革グループ」には、どのようなメンバーが集まっているのですか。
小野田氏: イノベーション推進部は22名の組織で、3つのグループに分かれています。その1つがデジタル変革グループです。メンバーは、情報システム部門でシステム構築を経験してきたメンバーや、技術研究所で研究開発に取り組んできたメンバー、世古のように業務用営業を経験してきたメンバーなどが集まっています。デジタルや技術に知見があるメンバーもいるし、現場の感覚が分かるメンバーもいるという構成です。
――「イノベーション推進部」は2019年4月に発足したそうですが、2年目である今年度、プログラムの開催を決めた理由は?
小野田氏: 私個人としては、発足当時から早くプログラムを開催したいと考えていました。ただ、当社はデジタルや最先端のテクノロジーのキャッチアップは遅れていました。
ですから、1年目は世の中の時流をつかみ、デジタルサービスを展開する”仕組みづくり”に注力してきました。スタートアップの方たちが集まる場所に顔を出したり、色々な情報収集やアイデア出しをしながら、種蒔きをしてきたのです。今年度に入り、活動の土台づくりができてきたので、「いよいよプログラム開催のタイミングがきた。アクセルを踏み込むぞ」という思いでいます。
▲東邦ガスが軒先株式会社と連携して提供する新規サービス『TOHOGASパーキング』(2020年7月1日より)
(参照URL: https://tohogas-parking.nokisaki.com/)
共創プログラムにかける想い
――最後に、どんなアイデアや想いを持つ企業に参加してほしいのか、御社の意気込みなども含めて教えてください。
小野田氏: 繰り返しになりますが、お客さまに貢献するという意味で、新しい付加価値を創り出していきたいと考えています。企業ですから、もちろん利益を生み出すことも必要ですが、それは結果です。まずは、お客さまに求められているもの、あるいは普段見えてはいないが、求められているものを見つけて提供したい。
特に今、新型コロナの影響で、経済状況が今まで以上に厳しくなっています。コストに対する意識も厳しくなるでしょうから、生産性向上に寄与できるようなアイデアが、今回目指すところではないかと感じています。
世古氏: 以前からDXが求められてきましたが、新型コロナによって、そのニーズがより一層高まっています。「何を導入すればいいのかが分からない」「どのように進めればいいのかが分からない」という製造業や医療・福祉業のお客さまに対し、提案できるアイデアやテクノロジーを探しています。
もちろん効率化も大事ですが、それ以外に、業界特有の課題解決に資するようなサービスを、スタートアップの皆さんと実現したいですね。私たちはお客さまの課題を直接聞ける立場にありますが、単独で解決するための技術や知見が不足しておりますので、ぜひそういった領域に強い企業の力を借りながら、一緒に取り組んでいきたいです。
取材後記
東海3県で100年近い歴史を持ち、現場に入り込んでエネルギー供給を担ってきた東邦ガス。およそ100年の歴史に裏打ちされるように、顧客との信頼関係は強固だ。同社は今回、製造現場や病院、福祉施設向けに、新たなソリューションを提案するために共創プログラムを開始する。製造業や医療・福祉分野において、何らかの技術やアイデアを持つ企業と相性がいいのではないだろうか。全国から応募を受けつけているので、東海3県にある企業はもちろん、今後ますます活気づくであろうこのエリアに進出を図る企業にとっても、このプログラムは大きなチャンスとなるはずだ。
※プログラムの詳細はコチラをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)