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【連載/4コマ漫画コラム(67)】Win-Winになる契約を締結するためには?

【連載/4コマ漫画コラム(67)】Win-Winになる契約を締結するためには?

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大企業が勝手にマネをして

オープンイノベーションの加速によって、大企業とスタートアップが組んで新たな世界を切り拓くことが当たり前のようになってきました。素晴らしいことです。

一方で、スタートアップのアイデアやノウハウが大企業に無断でマネされ、問題になり訴訟まで至ってしまうニュースも見られるようになってきました。ニュースでは、大企業の言い分として「スタートアップのものを参考にした訳ではない」というコメントが定番ですが、読者から見ると、「大企業ってひどいな」という印象だけになっている場合が多いと思います。

実際は(一部を除いて)、大企業側ではスタートアップのモノやアイデアを使った訳ではなくても、結果的に「似ている」ということが起こってしまうことがあり、それを素直に言ったとしても「大企業≒悪者」という図式に押し込まれてしまいがちです。

トラブルを悪用する連中に負けるな

なぜそんなことが起こりえるのかというと、大企業は大きな企業だからです(当たり前か)。

大きな企業だと、あるスタートアップと協業の検討をしている大企業内のチームとは別のチームがスタートアップのアイデアや技術は知らないのに似たようなモノを考え作ってしまう可能性があるからです。そのため、最初の打ち合わせではNDA(秘密保持契約)は作らない範囲での情報交換をすることを私はオススメしています(※関連記事:【連載/4コマ漫画コラム(17)】大企業との話し方 ① 普通の人が普通でない)。

せっかくオープンイノベーションの効果や力が認められつつあるときに、スタートアップとトラブルになったりすると、「そら見たことか、だから怪しいスタートアップなんかと付き合わない方がいいのだ」と旧来の自前主義に戻ろうとする勢力がなんやかやと言い出したりしてしまいますが、それは完全に本末転倒です。

そういうトラブルは「オープンイノベーションをやらない理由」に使ってはダメで、「どういう風にすればそういうトラブルを起こさないようにできるか」という「乗り越えるべき課題」として捉えて検討すべきです。

目の前の人がいなくなるかも

当たり前ですが、ちゃんとした契約を作る事は重要です。

「契約なんて冷たい関係でなく、志を共にして信頼をベースにして進めないと新しいことへのチャレンジなんかできるはずがない」という考えはその通りだと思うし、「志の共有」や「信頼」がベースにないと始まるものも始まりません。

ただし、残念ながらこの世は諸行無常なので、大企業側もスタートアップ側も将来「人」も変わってしまう可能性を考えておかなければなりません。「志の共有」や「信頼」は人が変わると一緒に消滅してしまい、トラブルが起こったときに拠り所がなくなってしまってこじれてしまいます。

そのため、契約を作る事は大事です。しかし、上述のように最初からNDAなどは作らずに、どういうこと目指すのかが明確になってきてから、「もし自分達がいなくなっても問題にならないように」という視点で契約をつくることが重要です。

また、目の前にいる「今の相手」は信頼できるとしても、その人がいなくなった後の人はどういう人や会社になるのかをある意味「性悪説」の感覚で想定しておくことも残念ながら重要です。(場合によってはパテント・トロールのような会社に買収されてしまうかもしれません。シリコンバレー時代に行った新規事業でもこの手で痛い目に合いました(^o^;))

当たり前の「契約」は当たり前か?

様々な問題の根源には「契約」についての「当たり前」が大企業とスタートアップで異なるということも挙げられます。

多くの大企業では契約の作成・チェックを専門にしている「法務部」があり、法的視点で抜け漏れがない契約作成のサポートをしています。残念ながら、普段は既存事業系の契約作成を主にやっているので、「リスクを伴うけれどチャレンジングな新規事業開発の場合」の知見が足りないことが多く、「しっかり問題のない契約」を作ろうとしすぎて新規事業開発のブレーキになりがちです。

大企業では「抜け漏れのない問題がない契約を作る」のが常識の中心地的位置に居座っています。

新規事業担当の方は、法務部の方に自分がやろうとしていることをトコトン充分に説明して、最低限の必要な内容だけの契約書を作ることに協力してもらうように努力するしかありません。そのためにも、法務部が作ってきた契約案をそのままスタートアップに渡すのではなく、自分がスタートアップ側になったつもりで内容を見てみましょう。

いつもの既存事業だと問題はないけれど、新規事業での協業にはふさわしくない「なんじゃこりゃ。大企業が有利になるためとか責任逃れができるようにとかの項目が満載じゃないか」という契約案の場合が結構多いのでしっかり見ましょう。

「法務や契約は法務部の仕事」という思考停止型役割分担に新規事業開発の方は陥ってはいけません。

金が苦しくても

一方、スタートアップでは、大企業と違い、人数が少ないので役割分担も明確でなく、一人があれこれやるしかありません。そのため、新規事業立ち上げの「あれこれ」の中ではどうしても「ややこしい契約作り」は優先度が落ちてしまいがちです。この構図は仕方ないことなので、お金があまり潤沢にない状態であっても、「スタートアップに特化した法律事務所」のパートナーを初期の段階から持って経費を払うことが必要です。

マネできない強みがWin-Winを作る

契約は大事です(しつこいか)。

しかし、そもそもオープンイノベーションなどで生み出そうとしている「Win-Winの協業」を行うために必要なのは、「相手がマネできないことをやる」ことです。「マネされた」のかどうかが曖昧なような技術やノウハウでの協業はうまく続きません。一番明確な「マネできない」状態は強い特許を持っていることですが、少数の特許だけで「マネ」の波を完全に防ぎ切るのは結構困難です。

そのため、「特許に書かれたやり方だけでは現実にはコレはできない」という「秘密のノウハウ」を意識して決めて秘匿していくことも必要です。

大企業側から見ると、スタートアップがやっていることで「なかなかマネできないなー」と思うのは技術やモノだけでなくて、「スピードとリスクテイク」です。単に技術がスゴイだけでなく、前進していくスピードとそれに必要なリスクを厭わない文化が大企業から見ると大きな魅力です。それらの源泉は結局は「人」です。明文化はしづらいですが「マネできない」大きな魅力です。

トラブっても前を向いて

「マネした」「マネしていない」とトラブルになり、訴訟まで至っていしまっているケースを見ると、ちょっと悲しくなります。スタートアップというものは「うまくいかない」ことばかりの状況であることが当たり前で、その中でなんとかポジティブに足掻いて前進していくのが成功に至る唯一の道です。

それにも関わらず、「うまい関係が築けなかった。許せない」と過ぎ去ってしまった過去に怨念のような負のエネルギーで争いを起こしていても仕方ないと思ってしまいます。それよりは「そうか、まだこれだとマネされるのか。どうすればマネされない強みを作れるか」と前を向くための経験に使ってもらいたいものだなあ、と思ってしまいます。

そういう強みが作れれば、ある1社とだけでなく、多くの大企業にとっても魅力的になるので、スタートアップから見たら「組む相手の選択肢」が広がる事になります。

大企業の方も同じです。スタートアップから見て「他の大企業ではマネできないXXがあるかどうか」というのが協業を続けて事業を成功に持っていくためにとても大事です。

XXには周辺技術力、製造力、販売力などが通常は考えられますが、最近だと魅力あるアクセラレータープログラムなどもその一つになるかもしれません。前述したこととは逆にもなりますが、関係構築の当初で最も大事なのは「他の大企業にはいないXXさん」というマネできない個人パワーと魅力が必須でもあります。


マネされて「倍返しだ!」なんてことをやるより、「じゃあ、もういいです。次に進みます」というのがいいなあ(半沢直樹は見ていないので、「倍返しだ!」の使い方を間違っているかも。ちゃんと理解しないままのマネは最悪ですね。)



■漫画・コラム/瀬川 秀樹

32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。

▼これまでの4コマ漫画コラムがアーカイブされている特設ページも公開中!過去のコラムはこちらをご覧ください。

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