コロナショックによって急速に普及した「リモートワーク」。新しい働き方として会社に様々な恩恵をもたらしてくれる一方で、リモートワークでの働きづらさを感じる声も少なくない。緊急事態宣言が解除されてから、出社する人たちの姿が増えたものの、リモートワークを続ける会社も多い。
そこで今回は、リモートワークでも事業を活性化するにはどうすればいいか、2016年からリモートワークを推進してきたキャスターで取締役を務める石倉秀明氏に話を伺った。「リモートワークで仕事ができないと言うのは、もともと仕事ができない人の言い訳」と語る石倉氏の真意と、リモートワークを成功させるためのポイントをお届けする。
【株式会社キャスター】
「労働革命で、人をもっと自由に」をビジョンに、オンラインアシスタントサービス『CASTER BIZ(キャスタービズ)』を始め、リモートワークを中心とした人材事業を幅広く展開。2014年9月に創業以来、導入企業は1,300社を超えるなど、事業は急成長中。本社を宮崎県西都市に構えながら、全国各地・海外でリモートワークで働くメンバーが約700名活躍している。
【石倉秀明氏】
キャスター取締役COO/bosyu代表取締役
2016年に株式会社働き方ファームを設立して代表に就任し、スタートアップを中心とした企業の新規事業支援、採用支援などを行う。同年10月より株式会社キャスター取締役COOに就任。2019年7月には「bosyu」事業を株式会社キャスターから分社化し、株式会社bosyuの代表取締役に就任。
リモートワークをもともとできてなかったことの言い訳にしない
ーーコロナショックが起きてから、どのような変化があったか教えて下さい。
石倉氏 : 企業から頂く問い合わせの内容の質が変わりましたね。以前は「リモートワークで社員がサボりませんか?」「セキュリティは大丈夫ですか」という質問が多かったのですが、今は「どういう評価制度にすればいいですか」「人に合わないで採用するにはどうすればいいですか」という質問が増えました。強制的にリモートワークを導入したことによって、どうしたらうまくリモートワークができるか、具体的なノウハウを質問する企業が増えましたね。
ーーそのような企業に対してどのようなアドバイスをすることが多いのですか?
石倉氏 : ケースバイケースなので、一概にどんなアドバイスをしているかは言えませんが、いつも言っているのは「リモートワークは働く場所が変わっただけ」ということです。渋谷の会社が恵比寿に移転したからといって、評価制度や目標設定を変えたりしませんよね。働く場所が家に変わっても同じです。もしも、リモートワークになって社員の評価ができないと言うのであれば、リモートワーク以前から適切に評価できていなかったのが露呈しただけですね。
ーーリモートワーク以前の問題なんですね。
石倉氏 : 「リモートワークだと、社員がちゃんと仕事しているか分からない」と言う方もいますが、それは出社しても同じです。出社して確認できるのは「オフィスにいる」という事実だけで、隣の人がなんの仕事をしているかまで把握していませんよね。本当はリアルでも評価できていなかったのを、リモートワークを言い訳にしているに過ぎません。
ーーではリモートワークに切り替える時は何もしなくていいのでしょうか。
石倉氏 : いえ、そんなことはありません。オフィスで仕事をするのとリモートワークでは、サッカーとフットサルくらい違います。競技が違うのですから、そのルールに合わせたトレーニングや戦略をとらなければいけません。ただし、競技が変わっても監督の仕事は「チームを勝たせる」ことには変わりはないですよね。監督、つまり経営者やマネージャーはルールが変わったことに気づいて、勝つための戦略やトレーニングを考えることが必要です。その努力もせずにリモートワークがうまくいかないのは当たり前です。
ーーリモートワークを成功させるための努力は必要ということですね。
石倉氏 : リモートワークに限らず、仕事をしていれば問題が起きるのは当然です。しかし、その問題の原因が「場所」にあるのか、場所以外の根本的なことなのかは正しく分析しなければいけません。
多くの企業を見ていると、問題の切り分けができずに、何でもかんでもリモートワークのせいにしている印象を受けます。いたずらにリモートワークに不安を感じるのではなく、今起きている問題の原因が何なのか正しく分析することが、マネジメント層には求められていると思います。
キャスターが社員に「察することを期待させない」理由
ーーリモートワークを成功させるために必要なことを教えて下さい。
石倉氏 : 先程リモートワークはオフィスを移転するのと同じだと言いましたよね。新しいオフィスで仕事をしやすいように環境を整えるのと一緒で、Slackなどのコミュニケーションツールをバーチャルオフィスに見立て、環境を整えていかなければなりません。例えば仕事に関係する内容は、関係者全員が見られるようにする必要があります。これを徹底しておけば、全員が同じ情報を共有できるので、無駄なミーティングも減らせて効率的です。
ーー情報の抜け漏れがなくなりますね。他にはどんなポイントがありますか。
石倉氏 : 何でも言える環境を作ることですね。リモートワークと対面での一番の違いは、「相手の物理的な姿が見えない」ということです。オフィスで働いていれば、意識しなくても相手が忙しいとか、体調が悪そうということに気づくことができます。
しかし、リモートワークでは本人から言ってもらわなければなかなか気づけません。
もしも周りが気づかないうちに、一人のメンバーが仕事をたくさん抱えていたり、体調が悪いのに無理していた場合、大きなミスや事故にも繋がってしまいます。そうならないためにも、みんなが自分の状況を臆することなく言える環境を作らなければいけません。
ーー社員の意識も変えなければいけないのですね。
石倉氏 : そうですね。私達の会社でも入社の際には、「今日から察してもらうのは諦めてください」と必ず言っています。メンバーのキャパシティ以上に仕事を抱えていたり、体調が悪くても、モニター越しに察してあげることはできないので、自分で申告してもらわなければいけません。申告しやすくするためにも、マネジメント層は「何でも言っていいんだ」という心理的安全性を作ることが重要です。
ーー心理的安全性を作るにはどうすればいいのでしょうか。
石倉氏 : 社内のコミュニケーションを増やすことです。会社でする話は大きく「業務連絡」と「相談」、そして「雑談」の3つに分類されます。それら3つを全てチャットに移行していくことが重要です。業務連絡ばかりしている環境では、なかなか体調のことや忙しいことを伝えづらいですよね。普段から雑談を含めて、活発にコミュニケーションがとれていれば、なにか困ったことがあればすぐに相談してもらえます。
ーー確かにリモートワークで雑談が減ったという話も耳にしますよね。
石倉氏 : リモートワークで雑談が減ったと思っている人は、Slackをメールの代わりだと思っているのではないでしょうか。Slackはメールではなくバーチャルオフィスなので、普段オフィスでしているような話をSlackでもすればいいだけです。
会社だったらわざわざ雑談を促さなくても、自然と雑談しますよね。難しく考えずに、普段オフィスでしているのと同じように話せばいいのです。それでもコミュニケーションが少ないというのであれば、リモートワーク以前に根本的に人間関係などに問題があるのではないでしょうか。
ーーリモートワークでは「すぐに返信が返ってこない」と悩んでいる方もいるようですが、それについてはどうお考えですか?
石倉氏 : 非同期コミュニケーション、つまりすぐに相手からの反応が得られないコミュニケーションは、リモートワークのメリットでもあります。上司から指示や質問が来ても、自分にとって都合のいいタイミングで返せるので、自分のペースで仕事に集中できます。
もしも非同期コミュニケーションがデメリットと感じているのなら、それはいつも自分の都合で仕事を進めているのではないでしょうか。仕事中に横から質問されたり、指示されていてはなかなか集中できません。非同期コミュニケーションは自分都合で仕事をしてきた上司にとってはデメリットになるかもしれませんが、全体的にはメリットになるはずです。
「正社員がフルリモート」のキャスターに応募が殺到するワケ
ーー改めてお聞きしたいのですが、リモートワークにおける最大のメリットとはなんでしょうか。
石倉氏 : 採用力を強化できることですね。弊社では自社のホームページから毎月1,000人以上の応募があるため、これまで採用に困ったことはありません。フルリモートで、働く場所を限定する必要がないため、全国47都道府県にいる優秀な人材を採用できるからです。多くの企業がフルリモートに対応できていないため、これだけでも採用市場における私達の優位性は格段と高くなります。
そして自社のホームページだけで採用できるため、エージェントや求人媒体を利用する必要がなくなります。仮に求人媒体を使うにしても「リモートOK」にするだけで、応募数が一桁は増えるので、掲載期間も短縮できます。加えて家族の転勤などによる離職も防げるため、補填のための採用をなくし、引き継ぎコストの削減にも繋がります。
ーー優秀な人材を採用できるだけでなく、コストも削減できるのですね。
石倉氏 : コスト関連でいえば、オフィスに関わるコストも削減できます。完全リモートワークにすればオフィスの賃料や移転にかかる費用も発生しませんし、光熱費や保険料もカットできます。出社する必要がないので社員の交通費も削減できます。リモートワークにしたからといってすぐにオフィスを解約したり、移転したりできるわけではありませんが、これだけコストを削減できる可能性を持っています。
ーー最後に、これからリモートワークで働く人達にアドバイスをお願いします。
石倉氏 : 何度も言いますが、リモートワークにして働く場所が変わっても仕事の本質は変わりません。それで仕事ができなくなったり、マネジメントがしづらくなったという人は、もともと潜在的にあった問題が表面化したのだと考えた方がいいと思います。問題が起きたときは場所が原因なのか、根本的な原因があるのか切り分けて考えてみてください。
編集後記
リモートワークに限らず、今の時代は新しい働き方、新しい技術、新しいビジネスモデルなど、せわしなくビジネス環境が移り変わっていく。新しいことを取り入れて成功する企業がいる一方で、うまく活かせない会社、頑なにあたらしいものを否定する会社がいるのは世の常だ。
しかし、重要なのは新しいものを取り入れるかどうかではなく、会社をよりよくする、ひいては社会をよりよくしようとする姿勢そのものではないだろうか。その姿勢がある会社は常に「どうしたらうまくいくか」を考え、そうでない会社は言い訳ばかりを考える。取材を終え、そんなことを考えた。
(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)