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【インタビュー】冷凍パンが生む共創の連鎖〜パンフォーユーと大企業

【インタビュー】冷凍パンが生む共創の連鎖〜パンフォーユーと大企業

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スタートアップが大企業と組むオープンイノベーションの事例が年々増えているが、文化の違う組織が一緒にプロジェクトを進めるのは容易ではない。プロジェクトを始めたものの、途中で頓挫してしまった例も少なくないはずだ。そして、その要因の多くは「相手への理解」の不足ではないだろうか。

「大企業には独特の力学が働いている」と語るのは、パンのサブスクリプションサービスを手掛けるパンフォーユー代表 矢野健太氏。自身も大企業の出身であり、その経験を活かして何社もの大企業との提携を成功させている。今回は矢野氏にパンフォーユーが今のサービスを始めるに至った背景と、大企業との提携を成功させるためのポイントについて話を伺った。

冷凍パンに感じたビジネスの可能性と社会的意義

ーーまずはパンフォーユーを設立した経緯について教えて下さい。

矢野氏 : パンフォーユーを立ち上げる前は、NPOで寄付の法人窓口を担当していました。その時出会った冷凍パンメーカーの社長に声をかけてもらい、合弁会社として立ち上げたのがパンフォーユーです。私は群馬県の出身ということもあり、地方に仕事を作りたいと思っていたので、地方との関連性が高い「食」の領域にもともと興味がありました。ずっといつかは起業したいと考えていたので、この出会いは一つの転機でしたね。

▲オンラインで取材に応じていただいた矢野氏

ーーパンのビジネスに成功する見込みを感じていたのでしょうか。

矢野氏 : はい。私はもともと食べ歩きが好きで、パン業界の需給のギャップを感じていました。いわゆる町のパン屋さんには、おいしいパンが並んでいるのに、それらは店頭と卸でしか売られていません。もっと商圏を広げて様々な売り方をすれば、市場を拡大できると思いました。当時は高級食パンブームもあったので、パンビジネスには可能性を感じていましたね。

ーー最初から今のようなパンのサブスクリプションサービスを?

矢野氏 : いいえ、当時は個人向けにオーダーメイドのパンを作って宅配するサービスでした。声をかけてくれたパンの会社は、業務用の冷凍パンの事業を展開していて、個人向けにもビジネスを拡大したいと考えていたのです。そこで新規事業として、個人向けの新しいブランドを立ち上げようと思ったのが始まりです。

ーー冷凍パンだと普通のパンと比べてどのような違いがあるのですか?

矢野氏 : 冷凍パンは従来のパン業界が抱えていた課題や、社会課題を解決できる可能性を秘めています。例えばパン業界は深刻な人材不足を抱えています。パン屋は一般的に朝と昼のピークに合わせてパンを焼きますが、冷凍販売にすれば製造スケジュールを柔軟に組めるため、人員を最適化できるのです。また、冷凍販売にすることで賞味期限を長期化できるので、フードロスを減らすことにも貢献できます。

さらには将来的にパン市場を救う一手にもなると考えています。今は国内のパン市場は右肩上がりですが、将来的には人口減少に伴い縮小していくことが目に見えています。もし冷凍販売ができれば海外へ輸出して商圏を拡大できるチャンスになるでしょう。

ーー社会的課題についてはどうでしょう?

矢野氏 : 冷凍パンなら地方のパンを東京でも販売できるので、地方の安い家賃と人件費で東京の市場にチャレンジ可能になります。今は人口が東京に一極集中していることが課題ですが、冷凍販売なら地方にいながら全国に商圏を広げられるので、地方創生に貢献できるでしょう。また、ライン生産の難しかった無塩パンを多品種で展開できるため、食事制限で通常のパンが食べれない方にも、美味しいパンが届けられるようになります。

「緊急度の高いニーズにフォーカスする」ことでピボットを成功

ーー個人向けブランドは無事立ち上がったのでしょうか。

矢野氏 : いえ、結局立ち上げることはできませんでした。一度使ってくれるお客さんはリピートしてくれたのですが、パンをオーダーメイドしたいというニーズがニッチだったのです。仕方なく、事業をピボットすることにしました。

ーー事業をピボットする時に意識していたポイントについて教えて下さい。

矢野氏 : 緊急度の高いニーズを探すことです。オーダーメイドの事業の時は漠然と「こういう世界がくるんじゃないか」という構想でプロダクト・アウトしていました。しかし、資金の残高も少なくなって、急いで売上作らなければいけないとなると、緊急度の高いニーズに対してサービスを提供しなければいけません。そこで個人よりもニーズの高い、オフィスに向け冷凍パンのサービスを展開することにしました。

ーーオフィスの方がパンのニーズが強いんですね。

矢野氏 : 個人向けのサービスをしている時から、オフィスにも細々とはパンを宅配していたんです。ある時、知り合いの会社に在庫の余ったパンを100個ほど送ったことがありまして(笑)。送付先の知人には怒られたのですが、それと一緒に冷蔵庫にパンを100個詰めた写真も送ってくれたんです。

実は個人向けにパンを配送している時は、個人宅の冷凍庫にパンを保存するスペースがないことに課題を感じていました。社長からの写真を見た時、オフィスの冷凍庫は普段使われていないので、パンを保存するスペースがあることに気づいたんです。加えて社長から1時間後にはパンがはけたという連絡をもらったんですね。社員のみなさんにパンが人気で、すぐに持ち帰ったとのことだったのです。

ーーなるほど。その時はまだ仮説の段階だと思うのですが、どのようにオフィスのニーズを確かめたのですか。

矢野氏 : Facebookで「オフィス向けに冷凍のパンのデリバリーをしたい」と投稿したところ、何社か興味を持ってくれる会社がコメントをくれたのです。そこで渋谷のゲーム会社に試験販売をすることにしました。パンは私自身が納品していたのですが、2回目にオフィスに伺った時にすごい勢いで社員の方たちが集まってくれたのが印象的でしたね。

その時に「なぜ都会で美味しいものを食べている人たちが、こんなにパンで喜ぶんだろう」と思ったのですが、同時に都市部にいると案外パン屋さんのパンを食べる機会がないことに気づきました。そのことから都内の人たちに、地域のパンをデリバリーするビジネスに手応えを感じたのです。

ーー冷凍パンがすごい人気だったのですね。

矢野氏 : そうですね。今使っている冷凍庫にパンが入り切らないほどでした。そこで私達が冷凍庫のレンタルと在庫管理などの保守を請け負うことにしたのです。冷凍庫の運用料で冷凍パンの送料がペイできたので、手頃な価格で社員の方々に提供できたことも、オフィス向けのビジネスに手応えを感じた出来事です。

「商談前に相手を徹底的に調べる」大企業との共創を成功させた秘訣

ーーサービスをリリースした後に、事業を急激に成長させた要因はあったのでしょうか。

矢野氏 : 一つは、企業向けの営業経験のある人材を採用して、営業組織を整備したことですね。もう一つは2019年3月に「がっちりマンデー」に取材されたことで、番組を見た大企業から協業の話を頂くようになったこです。国内の飲料メーカーのほとんどから問い合わせを頂きました。

ーーなぜそこまで飲料メーカーから問い合わせがあったのでしょう?

矢野氏 : 飲料メーカーのほとんどが、過去にコーヒーと一緒にパンのデリバリーにチャレンジしています。しかし、どのサービスも、なかなかうまくいっていない印象です。その原因は、焼きたてほどパンが美味しくなかったからです。そのため、飲料メーカーにとっては「美味しいパンを配達できる」ことは、とても価値が高かったのだと思います。

ーー飲料メーカーとの協業はスムーズに進みましたか?

矢野氏 : お話を頂いてから、実際にサービスを形にするまでは時間がかかりましたね。例えばネスレさんとの事例でお話すると、私達とネスレさんの持っている顧客層にズレがあったため、試験販売では見込みよりも反応がよくなかったのです。それは、大手であるネスレさんは誰でも手に取りやすい価格で商品提供が可能なのに対し、私達は利益率の問題もありアッパー層向けにサービスを展開してきました。

パンとコーヒーなら相性がいいと思っていましたが、「どんなパン、どんなコーヒーなのか」が重要だったのです。試験販売をしてからは、私達がネスレさんの顧客層に合うようにパンのテイストを調整してサービスを実現しました。大企業は多くの顧客を持っているため、大企業と組めば自分たちのサービスが売れると思っているスタートアップも多いと思いますが、顧客のニーズを細かく見定めなければうまくいきません。

ーー矢野さんは広告業界の大企業出身ですが、大企業と付き合っていく上でその経験が活きていることがあれば教えて下さい。

矢野氏 : 大企業との商談の時は、大企業で働いていた経験がとても活きています。大企業には独特の力学が社内に働いているので、その力学を無視するとうまくいく商談もうまくいきません。どういう話し方をすれば、上司や役員に話が通りやすいか考えて提案しています。特にスタートアップと組みたい大企業は、「今の市場でパイを取りきったから、次の一手を打ちたい」と考えているはずです。それなら、相手が次にどのパイを狙っているか考えて提案しなければいけません。

ーー具体的に大企業と商談する時に意識していることはどんなことでしょう。

矢野氏 : 初めての商談の時は、事前に相手のことはもちろん、競合の動きも徹底的に調べておきます。協業についての情報はそれだけでも価値になりますし、「競合のA社は最近スタートアップとこんな協業をしているみたいですよ」とお伝えすると、相手も新しい取り組みをせざるを得なくなります。

また、競合とも協業をしている、もしくはこれから協業する予定があるなら最初に伝えておくことが重要です。私達も国内の飲料メーカーとはほとんどお付き合いがありますが、商談の最初にどこと協業しているのかは必ず伝えるようにしています。協業が始まってから、他の企業とも付き合っていることを知るのは、企業規模に関わらず気持ちがいいものではないと思いますので。

 

様々なステークホルダーと手を組んで、新しいパン市場を作っていく

ーー飲料メーカー以外にも協業の話はあるのでしょうか。

矢野氏 : 最近は鉄道会社や家電メーカーからも問い合わせを頂くことが増えてきました。事業を通じて思ったのは、パンの市場はすごく大きな可能性を秘めているということです。これまで町のパン屋さんはローカルの狭い商圏でしかビジネスができませんでしたが、冷凍販売することで様々な業態が可能性を感じて声をかけてくれます。パン業界には原料メーカーや製造メーカーなど幅広いステークホルダーがいるので、彼らと一緒に新しい価値を作っていきたいですね。

ーー特に協業したい業態があったら教えて下さい。

矢野氏 : パンの魅力の一つが「人を集められること」なので、店舗ビジネスをしている企業さんとは一緒に何かできたらいいですね。必ずしも食品を扱っている店舗である必要はなく、他の商材と一緒にパンを扱ってもらえればと思います。例えばアパレルの店舗でパンを一緒に売ってもらえれば、それぞれの強みを活かして集客ができると思うので。

ーーコロナショックの影響で、オンラインで買い物をする風潮が強まりましたが、これからの時代の店舗の価値についてどう考えているのでしょうか。

矢野氏 : 仰る通り、物を買うだけならオンラインの方が便利です。ですので、店舗の役割はこれから「購買」から「体験」に変わっていくと思います。最近ではオンラインの広告費もどんどん高騰しているので、実は店舗で商品やサービスを認知してもらう方が割安にもなってきています。そういう意味も含めて、店舗はこれからの時代の新しい広告媒体として再認識されるべきだと思いますね。

 

編集後記

大企業とスタートアップに限らず、文化の違う組織が手を組めば多少の摩擦が起きることは避けられない。そんな時に一番大事なのは、相手を理解しようとする姿勢ではないだろうか。矢野氏が商談相手を徹底的に調べてから商談に向かうのも、相手を理解しようとする姿勢に他ならない。それは単純に矢野氏が大企業の力学を理解している以上に、大企業との共創を成功させている要因だと感じた。

今後はスタートアップと大企業だけでなく、大学や自治体、外資系企業など様々な組織とのオープンイノベーションが加速していくはずだ。そんな時も相手との違いを認め、相手を理解する姿勢こそが共創を成功させるポイントになってくるだろう。

(取材・文:鈴木光平)

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