【連載/4コマ漫画コラム(57)】 イノベーションを生み出す産学連携の仕方とは?
まずはイノベーションについてごちゃごちゃと
新規事業を生み出すために大学や研究機関と一緒にやることはとても有効な手段です。
ただ、企業が「新規事業」を生み出すのは、会社が存続・成長するために必須だとしても、大学や研究機関にとっては「新規事業創出」は直接のミッションではありません。しかし、(「昨今流行り」というと言いすぎかもしれませんが)「イノベーション」は企業にとっても大学・研究機関にとっても大事なキーワードです。
企業にとっては「イノベーション」は「新規事業創出」と同義語だと言っても過言でなないでしょう。「イノベーション」という言葉が日本で一般化した当時に「技術革新」と訳されてしまって、「技術を革新することがイノベーションだ」という狭い誤解が広がってしまいましたが、私は「イノベーションは新たな価値を創り出し、世の中に広めること」だと思っているので、企業にとっては「新規事業(という新しい価値)を広く世の中に届けること」が「イノベーション」だと思います。
その「新しい価値」を根本的に作れるのが「新しい技術」なので、「技術『で』革新すること『も』イノベーション」が正しい表現でしょう。
「Innovation」と「Invention」の違い
4コママンガに書いたInnovation」と「Invention」の違いは、実はだいぶ前のWikipedia(英語サイト)の「Innovation」のページに載っていたものです(今は変わって載っていない?)。「Innovationとは」という大量の解説の中の一番短くて一番私が気に入ったものです。
「Cash(研究費など)を使ってIdea(Patent等)を作るのはInvention(発明)、Ideaを使ってCashを生む(事業化する)のがInnovation」。("Invention is the conversion of cash into new ideas. Innovation is the conversion of new ideas into cash.")
なるほど!と思いました。大学や研究機関では基本的には研究費を使って研究して、Ideaを作ります。これはInvention。Ideaを使ってCashを生むように世の中に広げる事業化がイノベーションです。イノベーションにはいいアイデアが源泉として必要です。その「いいアイデア」が「新しい技術・大きな技術革新」であると、ちょっとしたアイデアに比べると大きく飛躍するイノベーションにつながる可能性があります。そういう意味で、InventionもInnovationのための大事な「一部」だとも言えます。
その大きなイノベーションを生む可能性のある技術の種は大学や研究機関にあることが多いのです。だから大学や研究機関と一緒にやることは企業にとってはとても大事で有効な手段です。
ただし、時間がかかる。また、成功確率も高くない。「大きな飛躍を生む」ので、当たり前ですが、その覚悟や割り切りが必要です。
大学や研究機関の見つけ方
企業にとってパートナーとなる大学や研究機関はどうやってみつければいいのでしょうか。
このコラムでは「網羅」は目的としていませんので、3つほど紹介しましょう。
1つ目は、自社が得意としてきた技術領域で「これはなんだ?本当にできるとすごいな!」と思う研究をやっている大学や研究機関とコンタクトすることです。自社に知見もあり、日々その領域の情報に触れているので、「なんじゃこりゃ」に出会えます。「こんなのできるはずないじゃん」と思えるものこそ「未来のinvention、ひいては未来のinnovationにつながる」可能性があります。
もちろん、おかしなテーマも混じっている可能性もあるので、できるだけの技術精査も必要ですが、「もしかしたらできるかも」と思うレベルであれば、共同研究として参画してみるのもいいでしょう。自社が得意としてきた領域であるので、その技術ができた暁にはどういう事業や製品につながるかも考えやすいでしょう。
2つ目は、自社内には知見がない技術領域です。自社が保有している技術から新規事業を作るのではなく、自社が世の中に提供する「価値」の視点から考えた「新規事業」をアイデアから作る時に、事業アイデアはできたけれど、それをどう実現すればいいかが分からないことが多々あります。
その場合、ネットなどで調査をして「~ができる技術」を見つけます。まだ大学や研究機関で研究中の「すごい技術」がこの過程で見つかることがあります。もちろん、新規事業の全てをこの「不確実な研究中のテーマ」に賭けて(委ねて)しまってはいけないので、短期的な新規事業立ち上げのためには既に実現されている技術を活用するなどの戦略は必要です。
3つ目は自社内で新規事業領域を定めて、既にいくつかの新規事業立ち上げにトライしている状態の時に、その同じ領域で「事業化」を目指している大学・研究機関の先生たちと協働することです。大きなinventionを含んでいるものもあれば、それほど技術的には大きな飛躍はしていないけれど、世の中に広がれば大きなインパクトにつながる可能性がある技術もあります。
このように色々なケースがありますが、どれもできれば世界の大学・研究機関にも目を向けましょう。日本に窓口があるところも沢山あります。
残念ながら……気をつけよう
どの場合もキーとなるのは「先生」と「産学連携組織」です。実際に共同研究などを始める前に、腹を割ってじっくりと話をしましょう。先ほど書いたように「時間がかかり」「色々起こる(不確実性が高い)」活動となるので、一緒にやっていけそうかどうかの見極めが重要です。人間としての志や夢の話をしてみることも「本気度」「真意」を把握するために大切だと思います。
残念ながら、多くの「先生」は、事業化には興味がありません。いかにも事業化を目指しているというフリをしていても、実はそれはあくまで自分の「研究」を進めるための資金稼ぎの場合がかなりあります。そういう先生は、いくら口酸っぱく「特許を出す前には決して学会発表などしないように」と注意していても、学会や論文で発表してしまったりします。研究者として一番のアウトプットは学会発表や論文だからです。一旦発表されてしまえば、既知技術として特許化に大きな支障となります。
そして、柔軟な雰囲気を醸し出している先生でも、実は中身は頑固な場合が多く(だからこそ研究ができるのですが)、企業側からの要望には結局対応せずに、自分がやりたい研究だけに邁進する先生も多くいます。
また、本来は「イノベーションを起こす(世の中に価値を広く提供する)」ために大学や研究機関の技術を活用する「産学連携組織」のはずですが、その志の低さからか、本気度の薄さからか分かりませんが、結局「事なかれ主義」が蔓延していて、何かやろうとするとややこしいルールとかを盾として中々前に進ませないような人たちが多いのも事実です。「不実施補償(大学は事業化しない(不実施)だから、その分補償(支払)しろ)」なんていうとんでもない契約条項を持ち出すところは(だいぶ減ったと思いますが)そのダメケースの最たるものです。
正直、大学・研究機関と一緒にイノベーションを起こすのは結構面倒なことが頻発しやすく、簡単にはいきません。でも、「飛躍した大きなイノベーション」を起こすためにしっかりとした覚悟と柔軟な対応を持ってやればなんとかなります。そのためにも「この人であれば」という人に出会うことが最大のポイントでしょう。本当に素晴らしい先生や産学連携組織の方は存在します。
ただ、企業側にも大きな問題があります。企業内の人事異動で突然担当を外されることです。……いろいろスイマセンでした(と昔を思い出して謝ります)
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。
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