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テクノロジーの活用で、仙台の老舗百貨店はどう変わる?――『SENDAI X-TECH Accelerator』 審査会レポート 【藤崎編】

テクノロジーの活用で、仙台の老舗百貨店はどう変わる?――『SENDAI X-TECH Accelerator』 審査会レポート 【藤崎編】

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「X-TECHイノベーション都市」を標榜する仙台市が、「楽天イーグルス」(株式会社楽天野球団)・「藤崎百貨店」(株式会社藤崎)という2社とコラボレーションして進めるアクセラレータープログラム『SENDAI X-TECH Accelerator』――。

昨年の11月に応募が締め切られ、書類選考が実施された。去る1月15日、書類選考で選ばれた13社が、仙台市で開催された審査会(ピッチコンテスト)で実現したいプランを提案。その中から、次のステップであるインキュベーションに進む企業が決定した。本記事では、前編(楽天野球団編)に続く後編として、「株式会社藤崎」に選ばれた2社、Musignal(ミューシグナル)とヒナタデザインの提案について紹介する。

なお、株式会社藤崎は、1819年に仙台で誕生して以来、200年もの歴史を持つ百貨店だ。呉服屋からスタートし、時代の変化に合わせて形態を変えてきた。日本で初めて、百貨店にダブルエスカレーターを導入するなど、その時代の新しいものを積極的に取り入れ、成長を続けてきた企業だ。最近では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を業界に先駆けて導入し、注目を集めている。

創業200年の老舗百貨店でありながら、ベンチャースピリッツもあわせもつ藤崎が、本プログラムで提示したテーマは、「リアル店舗×テクノロジーを活用した、新しいお買い物のWao! 体験」だ。このテーマに対して、どんなプランが提案されたのか?――百貨店の体験価値を変える、2つのプランについて詳しく紹介する。

藤崎の経営陣も参加し、プランを検討

審査会では、書類選考を通過した7社が、発表5分・質疑応答10分の持ち時間でプレゼンを行った。質疑応答の時間には、各審査員からプロダクトの強みや優位性、運用の仕方などについて、鋭い質問が投げかけられた。なお、今回の審査会における審査基準は、「テーマ・コンセプトとの整合性」「市場性」「実現可能性」「スケーラビリティ」の4点。これらをもとに審査が行われた。審査員を務めたのは以下の7名だ。

株式会社藤崎より

■執行役員 本店長/婦人・紳士・子供雑貨部ゼネラルマネージャー 勢田誠一氏

■執行役員 営業企画部ゼネラルマネージャー/販売促進部ゼネラルマネージャー 西條淳一氏

■経営企画部 シニアマネージャー/経営企画担当チームマネージャー 三浦佳恵氏

■経営企画部 経営企画担当 水上理恵氏

■営業企画部 営業企画担当チームマネージャー 佐藤健治氏

■経営企画部 未来創造ラボ 千葉伸也氏

■経営企画部 未来創造ラボ 根本雄二氏

▲審査会には藤崎の役員など経営層が参加。新規事業に対する本気度の高さがうかがえた。

 “おいしい音”で、人の心をつかむ――Musignalが提案したプランとは?

1社目は、仙台市に本社を構える株式会社Musignal(ミューシグナル)だ。同社は2019年10月に起業したばかりの「音」を専門にするエンジニア集団だという。主なプロダクトは、独自に開発したスピーカー「Sizzle Panel(シズルパネル)」だ。「Sizzle Panel」は、96kHz、24-bitのハイレゾ(※1)音源を忠実に再生するデジタルスピーカーで、厚みがわずか2センチと場所をとらないコンパクトさが特徴だ。

※1: ハイレゾとは、ハイレゾリューションオーディオ (High-Resolution Audio) のこと。CDに比べて約6.5倍情報が多い高解像度な音源。CDよりもオリジナルの音源により近いことから、音の太さや繊細さ、奥行きなど、よりクリアな臨場感のある音として伝えることができる。

プロダクトの説明後、味覚を刺激する「おいしい音」が会場に流された。天ぷらがジュワジュワと揚がる音、肉やジュージューと焼ける音など、よだれが出そうになる音だ。これらは、今、若者が夢中になっている、ASMR(自律感覚絶頂反応)を呼び起こす心地のよい音だという。同社は、この「ASMRを呼び起こすおいしい音」と「Sizzle Panel」をセットにして、店舗向けの集客ツールとして提供している。

創業まもないが、宮城県内を中心にすでに導入が進んでいるという。2020年1月現在で約40台が稼働中だ。導入先はスーパーマーケットや飲食店などで、導入店舗からは「集客力が向上した」「売上が上がった」「お店で働くスタッフが元気になった」といった高評価を得ているという。

そんな同社が藤崎百貨店で実現したい提案はこうだ。百貨店の本館地下の食品売場に、「Sizzle Panel」を設置し、「おいしい音」を流す。たとえば、仙台の特産品である仙台牛や牛タンの近くでは、お肉の焼ける音を流すといった活用の仕方だ。特産品を音で表現し、売り場の「Wao! 体験」につなげる。

さらに、百貨店内だけではなく、通り全体をお祭りの音で盛り上げたり、50個以上の「Sizzle Panel」からそれぞれ別の楽器音を流し、オーケストラのような音空間を生み出したり…。「音」を活用したさまざまなチャレンジができると説明。百貨店の中だけではなく、街全体を盛り上げる提案も盛り込んだ。

質疑応答では、「音源はどうするのか?」との質問が出た。これに対し「収音から一緒にやりたい。実際のお店の音を使いたい」と回答。また、「他社のスピーカーと異なる点は?」という質問に対し、「ハイレゾスピーカーなので音の密度が違う。そこにこだわって、システムの開発を行っている」と説明した。さらに、「ASMR呼び起こす音について、研究をしている人はいるのか?」という質問に対し、「今、大学の研究者などに人脈を広げようとしている。脳科学的にどういう音が効果的なのかは、これから研究していきたい」と話した。

ARを用いて、百貨店の体験価値をアップデートする――ヒナタデザインが提案したプランとは?

2社目は、実物大表示アプリ「scale post(スケポス)」を開発・提供する株式会社ヒナタデザインだ。同社が開発した「scale post」は、スマートフォンやタブレット端末上で、簡単に服の試着や家具の配置ができるプロダクトだ。AR(拡張現実)をベースとしており、特許も取得している。試着の場合だと、全身写真に加えて、身長の値を登録すると、画面上で着せ替えができるようになるという。家具や家電のコーディネートにも活用可能だ。自分の部屋の写真を登録し、机の端から端など計測しやすい部分の実測値を登録。自分の部屋の写真の上に、実物大の家具を配置することができる。

同社はこのプロダクトを百貨店に導入し、百貨店を新感覚の体験ができる場に変えていくことを提案する。具体的には、百貨店で販売している商品を「scale post」に登録し、登録された商品をもとに「SIZEコンシェルジュ」が、タブレット端末を使ってお客様に提案。新たな体験を生み出す。これまでの導入実績から「自分の写真で着せ替えができると、大変喜ばれる」という。さらに、LINEを使って遠くにいる家族や友人に共有する機能も搭載している。たとえば、成人式用の着物を孫の写真に実物大で重ね、LINEで送ることも可能だ。情報発信ツールとしても使うことができるという。

今回、百貨店内に、「scale post」を活用した「SIZEコンシェルジュサービス」を新たに生み出すことで、次のような効果が期待できるという。1つ目は、ブランドやフロアを超えて、お客様が目的別に商品を一望できる実用型総合カタログ機能を付加できること。2つ目は、フロアスタッフの知識・提案力を向上させられること。3つ目は、百貨店の体験を「歩く→見る→買う」から、「選ぶ→試す→買う→拡散する」へと変え、体験を主軸とした集客効果、購買向上を狙えること。4つ目は、お客様の登録した情報をもとに、マーケティングを実施できることだ。同社は、顧客や市民、スタッフ、商品をコンテンツ化し、全世界へと情報発信していく『F☆Cast(F・キャスト)構想』を提案し、発表を締めくくった。

この提案に対し質疑応答では、「百貨店の商品数は非常に多い、情報を登録するのにどれくらいの手間がかかるのか?」という質問が出た。「画像を切り出して、サイズ情報を登録するだけだ。それほど手間はかからない」と回答。また、「これまでの導入実績から、洋服の着せ替えを活用する層は?」との質問に対し、「30代の女性が多い。バッグなどのサイズ感を、自宅で試すのによく使われている。しかし、自宅だけではなく店頭のコミュニケーションツールとしても活用できる」と返答した。

選ばれし2社が、藤崎とともにインキュベーションへ

上記2社はこの後、約2カ月間のインキュベーションに入る。インキュベーション期間中は、アイデアの実装に向けて、プランをより具体化していく。Musignalとは「食」のプロモーションはもちろん、藤崎が仕掛けるイベントなどでも活用できないか検討を進める。また、ヒナタデザインとは、百貨店内での活用はもちろん、外商セールスチームの販売ツールとしての可能性も探る。3月中旬には、その成果を発表するデモデイも開催される予定だ。

取材後記

ECの台頭で既存の小売店が苦戦を強いられる中、「リアルな店舗」の体験価値をテクノロジーの力を使って、どうアップデートしていくか――。今回のプログラムで選ばれた2社は、それぞれ違うアプローチから、体験価値の向上を目指すものだ。「脳を刺激する音が流れる百貨店」「タブレット端末上で簡単に試着や家具・家電のコーディネートができる百貨店」…。これまでの百貨店が、どう変わっていくのか。今後の動きが楽しみだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:古林洋平)

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