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【TAP Key Person's Interviews】♯09 1日約300万人が利用する巨大フィールドでMaaSの未来を共創する | 東急株式会社 鉄道事業本部

【TAP Key Person's Interviews】♯09 1日約300万人が利用する巨大フィールドでMaaSの未来を共創する | 東急株式会社 鉄道事業本部

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2015年から東急電鉄が実施している事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。幅広い領域で求められている技術・アイデアはどのようなものか?そしてオープンイノベーションを通してそれぞれの領域では何を実現したいのか?――それらを可視化するため、eiiconではTAPに参加する東急グループ各社にインタビューするシリーズ企画『TAP Key Person's Interviews』をスタートさせた。

今回登場するのはTAPの鉄道事業領域を担う、東急株式会社 鉄道事業本部だ。(同社は9月2日に商号変更を行っており、10月1日より東急株式会社と東急電鉄株式会社に分社化する。鉄道事業は東急電鉄株式会社が継承)東京・神奈川を中心とする広大な地域に東横線や田園都市線など、8つの鉄道路線を展開し、業界トップクラスの輸送人数と売上規模を誇る同社の鉄道事業は、地域密着で不動産やレジャー開発などのまちづくりを推進する東急グループの中核を担っている。

あらゆる移動サービスを新たなテクノロジーや通信技術によってシームレスにつなぐMaaS(Mobility as a Service)が注目を集めるなど、モビリティの革新が叫ばれる中、鉄道事業本部はTAPを通じてどのような世界観を実現しようとしているのか?――技術戦略部 イノベーション推進課 課長の矢澤氏、運輸計画部 地域連携・マーケティング課 課長代理の後藤氏にお話を伺った。

【写真左】 東急株式会社 鉄道事業本部 技術戦略部 イノベーション推進課 課長 矢澤史郎氏

1999年、東急電鉄へ入社。総務部と広報部を経て、2013年に鉄道事業本部へ異動。駅設備の管理や人事・教育系業務を担当した後、2015年に電気系部門の企画セクションへ異動。現場業務の効率化など、さまざまな事業課題の解決に従事。2019年4月に多数の技術部門を横断して戦略立案を行う技術戦略部 イノベーション推進課の課長に就任し、鉄道事業のイノベーションを目指す幅広いプロジェクトを推進している。

【写真右】 東急株式会社 鉄道事業本部 運輸計画部 地域連携・マーケティング課 課長代理 後藤修平氏

2003年、東急電鉄へ入社。鉄道事業本部にて駅係員、運転士、車掌などの現場業務、鉄道用地の仕入などを担当し、2013年に経営企画室へ異動。2016年からは観光事業開発部 企画開発課の業務も兼務。同社のオープンイノベーション活動の一環として訪日外国人向けガイドマッチング事業・地域PR事業を手がける株式会社Huber.へ出向し、セールス領域を担当。2018年10月に鉄道事業本部へ異動し、鉄道利用の需要促進に関する企画業務や沿線地域の活性化を目指したイベントの企画などに携っている。

 

TAPによる共創を通じて「スモールトライ」ができる組織を目指す

−−まずは東急グループの中核を担う 鉄道事業本部がTAPに参加した背景についてお聞かせください。

矢澤氏 : 昨今では多くの鉄道会社がTAPのようなアクセラレートプログラムを展開していますが、鉄道会社が展開する幅広い事業の中から次なる鉱脈を見つけてアプローチしていく傾向が強いと感じています。つまり、鉄道事業そのものがターゲットになっていたかというと、必ずしもそうとは言えませんでした。

ただ、今回私たちは鉄道事業そのものを磨き、現在の業務や運営のあり方を変えていきたいと考えています。そのためにもTAPを通じて、従来の私たちが持っていたチャネルや視点からは得られなかった価値観を持った方々とつながっていきたいと考えています。

−−従来では得られなかった価値観とは、どのようなものでしょうか?

矢澤氏 : たとえば、これまでの私たちは重工メーカーや機械系メーカーなど、限られた企業としか社外接点を持っていませんでした。もちろん彼らには豊富なリソースがあり、アイデアもあるのですが、最終的には大企業同士の話になりますし、従来型の鉄道保安の考え方に則って取引をしているので、どうしても限りなく完成品に近い製品や重厚長大なプロジェクトの提案をいただくことになってしまいます。

そうするとコストも莫大になるので決裁のスピードも落ちますし、「スモールトライでいろいろ試してみよう」という訳にもいかなくなります。私たちとしてはピンポイント、一点突破型の技術やサービスを持っていている方々とスモールトライでさまざまな取り組みを進めていきたいと考えているのですが、残念ながらそうしたチャネルをほとんど持っていません。そこでTAPに参加することで、より多くのスタートアップやベンチャーといった外部企業との接点を作りたいと考えたのです。

後藤氏 : 鉄道事業なので当然と言えば当然なのですが、当社はこれまで安心・安全、定時輸送などを重視して事業を行ってきました。そのため、会社としてイノベーティブなこと、新しいことを進めていくことが少々苦手であり、「余計なことをするくらいなら現状維持でいい」という雰囲気を感じることもありました。

だからこそTAPのような制度を活用することで、当社が積み上げてきたリソース・経験に外部からの新しい見識や技術を取り込むことで、より良いイノベーションを生み出すことができるのではないかと期待しています。

−−現状の課題、顧客のニーズなどを踏まえ、具体的にフォーカスしていきたいテーマ・領域について教えてください。

矢澤氏 : 今のところ2つの軸で考えています。一つはお客さまの利便性向上、さらには現場の係員や技術者の利便性・効率性向上です。もう一つの軸は業務やメンテナンスにおける工数です。

お客さまの利便性、係員の効率性、つまりは運行の安定性ということですが、これらの値が高く、なおかつ工数がかかっている部分に関しては、どうしても人間による業務が必要になるので、それらの業務をオペレート、あるいはメンテナンスしている人間をいかにサポートするかという部分にフォーカスしたいです。

さらにはお客さまや係員の利便性・効率性につながらないものの、絶対にやらなければならない業務であり、なおかつ工数がかかっているものについては、テクノロジーやツールを活用することで早々に人間の手から離したいと思っています。この2軸で切ったときの2つの象限についてフォーカスしていくつもりです。

−−いま矢澤さんが仰った「絶対にやらなければならない業務であり、なおかつ工数がかかっているもの」とは、具体的にどのような業務を指しているのでしょうか。

矢澤氏 : たとえば現場設備のメンテナンスです。メンテナンスについては、これまでTBM(Time Based Maintenance/時間基準保全)で行っていたものをCBM(Condition Based Maintenance/状態基準保全)化していくことを考えています。

これまでは一定の更新周期に合わせて一斉点検・一斉交換を行うという人工のかかるやり方をしていたのですが、CBM化することでコストも工数も平準化していくはずです。技術サイドでは、こうしたCBM化のためのデジタイズが大きなテーマとなっています。

−−フォーカスしていきたいテーマ・領域について、後藤さんはいかがですか?

後藤氏 : 私は矢澤さんと違ってオペレーションサイド、お客さま側に近い部門にいるのですが、私たちの部門ではコスト削減、利便性の向上、需要促進が大きなテーマとなります。

まず、コスト削減については技術によって解決できる部分が大きいと考えています。たとえば駅では毎日、一円単位まできっちり合わせて納金作業を行っています。しかもダブルチェック、トリプルチェックまで行っているんです。もし、完全なキャッシュレス化が実現すれば、こうした業務の人工(にんく)が浮くことは明らかです。

また、利便性の向上に関しても技術がキーになると考えています。鉄道だから単純に輸送するということではなく、車内で快適に過ごすためのテクノロジー、サービスを考えていくことも必要だと思っています。最後に需要促進ですが、ここは単純なテクノロジーとは少し違った方法が必要だろうと考えています。

−−需要促進についてはテクノロジーではなく、どのようなものが必要なのでしょうか?

後藤氏 : 私は2016年のTAPで東急賞(最優秀賞)を受賞した株式会社Huber.と一緒に、世田谷線沿線の豪徳寺を新たな観光資源として発掘し、PRするという取り組みを進めていました。結果として、世田谷線をはじめ、当社の輸送人員が年間で約40万人も増加した という成果が得られたのですが、沿線の魅力的なスポットを発掘し、集客をするというのはアイデア次第だと思っています。

東急に限らず増加しているインバウンドも視野に入れつつ、どのような人たちに対して何をアピールすれば集客につながるかを発見し、お客さまを増やしていく。さらには沿線の街に定住したいと思っていただけるような取り組みにつなげていくことも重要だと考えています。

  ▲東急電鉄×Huber.による共創プロジェクトとして進められた外国人観光客向けのサービスを強化した観光案内所「WANDER COMPASS SHIBUYA」(2018年10月オープン) 関連記事:https://eiicon.net/articles/572 

データ分析、ロボティクス、MaaS――共創の領域は幅広い

−−お二人が特に注目しているサービスやテクノロジー、さらには共創したい企業のイメージなどがあればお聞かせください。

矢澤氏 : データを徹底的に回帰分析して法則を見つけ出し、アルゴリズムを生み出すことができる方々と共創したいです。米国のベンチャー企業であるフラクタ社の技術を活用し、電気施設の障害発生予測等のPoCを行っているのですが、彼らに啓発されることも非常に多いのです。

たとえば、私たちが今までデータと呼んでいた紙資料などはデータと呼べるようなものではなかったということを知りましたし、今まで自分たちが見ていた”しきい値”ではわからなかったものが、粒度を1000分の1に下げることで予兆らしきものが見えてくるなど、これまでメーカーに収めてもらっていたシステムではわからなかった領域の話も出てきました。同社のように私たちが持っているデータを峻別しながら利活用でき、最終的にはAIでエンジンを回していけるような技術・ノウハウを持った方々と組んでみたいですね。

ーー他にはありますか?

矢澤氏 : もう一つ挙げるとするとロボットですね。高所、壁裏、天井裏、床下、トンネル部のケーブルなど、人が入りにくいような場所にセンサーを積んだロボットが入り、設備をチェックしてアラートを挙げてくれるようなシステムがあるといいなと考えています。今私が興味を持っているのはデータ分析とロボット、その2つの領域です。

ーー後藤さんはいかがでしょう?

後藤氏 : 当社では「日本一の駅」を目標に掲げているので、駅員を接客に集中させたいのですが、如何せん駅員の担当業務が多すぎるので、駅員の業務を置き換えられる、あるいはサポートするようなテクノロジーを提案いただけるような企業との共創を望んでいます。

また、MaaSという観点で言うと、交通の付帯サービスとしてのシェアサイクルやタクシー、カーシェアですね。これらを丸っと定額制で提供できるようなサービスも構想しています。

加えて都心型のMaaSとしては東急グループの映画館、飲食店なども定額制の中に取り込んでいくことで、東急独自のMaaSを作り上げていくことができれば、より多くの方々に選ばれる沿線になっていくのではないかと考えています。こうしたサービスに関しても一緒に取り組んでくれるような方々と出会いたいですね。

−−矢澤さんは米国のフラクタ社、後藤さんはHuber.社など、すでにスタートアップとの取り組みを進めているというお話でしたが、そうしたスタートアップと共創することで得た気づきや刺激などはありましたか?

矢澤氏 : たとえばメーカーとの取引の場合は、製品ありきなので「その製品で合っているか」というマッチングのみを重視していましたが、スタートアップとの共創は本当にゼロベースから始まるので、自分たちが求めているものを深く掘り下げ、綿密な擦り合わせを行い、互いに最終成果物のイメージを合致させておくことが重要であると感じました。そうしないと何も先に進まないんです。

また、スタートアップやベンチャーというと「先進的でスマート」というイメージを持っていたのですが、実際に彼らと協業してみると、とにかく泥臭いことを厭わずやり続けるんですよ。「48時間寝ないでひたすらデータ叩いてます」みたいな(笑)。そうしたスタートアップの「一旗挙げるんだ!」という熱量の高さには、本当に刺激を受けました。それこそレールを溶かすような熱量ですよね。

後藤氏 : スタートアップの方々はトライアンドエラーのスピードが恐ろしく早いですよね。当社としても、「このくらいのスピード感でやっていかないと変われないな」ということは強く感じるようになりました。今までは一つひとつ丁寧に会議にかけて物事を進めていくという文化を持った会社でしたが、少しずつ当社の雰囲気も変わりつつあると思います。

ILSチャレンジにも参加、共創の門戸は大きく開かれている

――TAPに参加する共創パートナーに対して、提供できるリソース・アセットにはどのようなものがありますか。

矢澤氏 : 東急電鉄は1日約300万人、年間延べ11.8億人 のお客さまにご利用いただいています。この巨大なフィールドを、皆さんの技術やサービスを試していただくための場として提供させていただきます。また、その中で生み出されたイノベーティブなツールやサービスについては、その後も検証を繰り返しつつ、しっかりと現場に根付かせていくようなサポートをさせていただくつもりです。

後藤氏 : 私も矢澤と同意見です。1日約300万人にコンタクトできる可能性があり、それが毎日続いていく。そうした環境を活用してさまざまな検証ができることは、スタートアップの方々にとっては最大のポイントになるかと思っています。また、当社の鉄道事業は広大な範囲に広がっており、重要な拠点を抑えています。通常では利用することが難しいと考えられる駅の改札前の一等地を使って調査を行うことも可能です。そうしたアセットに関しては積極的に提供していきたいと考えています。

――最後になりますが、TAPへの応募を考えているスタートアップやベンチャーの皆さんへのメッセージをお願いします。

矢澤氏 : 鉄道の運行や保安に関わるシステムは、国の認可・申請も必要です。「多分、大丈夫」という状態では人が行っていた業務を完全に置き換えることは難しく、「絶対、大丈夫」というブレイクスルーまでのハードルが非常に高い環境であるため、イノベーションが生まれにくい分野であったことも事実です。

しかし一方で、5年先、10年先に必ず訪れる労働人口の減少を考えると、そうは言っていられない状況です。「今、何かを変えなければならない」という危機感は、間違いなく当社の中にも生まれつつあります。今まで閉鎖的だった鉄道業界だからこそ、さまざまな領域にイノベーションを起こせる可能性が広がっていると思いますし、私たちも新しいアイデアや技術に飢えています。ぜひ、私たちと一緒にチャレンジしていただきたいですし、皆さんの熱い想いには全力で応えていくつもりです。

後藤氏 : 先ほど矢澤が言ったように、「レールを溶かすぐらいの熱量」を持っている方々に来ていただけると嬉しいですね(笑)。鉄道業界は皆さんが考えている以上に世の中から遅れを取っていることは間違いないと思っています。「世の中ではIT化、デジタル化が進んでいるのに、未だにこれか…」という現状は、これまで外部の方々には見えていなかったのではないかと思います。だからこそ、新しいテクノロジーやアイデアで変わっていく余地が大きいはずですし、そこに魅力を感じていただける方に来てほしいと考えています。

また、今回の分社化により、意思決定のスピードも上がっていくと思いますし、「トライエンドエラーを繰り返して何度もチャレンジしていこうよ」という雰囲気を会社全体で作っていくつもりです。

矢澤氏 : 当社は通年で行っているTAPの他、今回初めてILSチャレンジ2019にも参加しています。ILSチャレンジでは鉄道事業を中心としたテーマでスタートアップを募集しているので、興味のある方はぜひご参加ください。

取材後記

近年MaaSという概念が注目を集めているように、鉄道業界や自動車業界ではAIやIoT、5Gなどの高速通信規格、自動運転といったテクノロジーの進化とともに、移動体験そのものを大きく変えるようなイノベーションの萌芽が次々と生まれ、実用化に向けての研究や実証実験が進められている。とはいえ、モビリティに関するイノベーションは、他業種や行政、地域との連携も含めて非常に広範囲に影響することもあり、日本を代表する大手企業であっても未だにそのポテンシャルのすべてにアプローチできているわけではない。TAPを通じた東急電鉄との共創により、そんな「可能性の塊」のようなフィールドで、独自の技術・アイデア・熱意を武器に大きなインパクトを生み出してほしい。

また、同社は10月28日に開催されるアジア最大規模のオープンイノベーションマッチングイベント「イノベーションリーダーズサミット (ILS)」に参加することが決定しており、「ILSチャレンジ with 東急アクセラレートプログラム ~RAILWAYS VERSION~」の参加企業を募集している。選出企業5社に選ばれることで、ILS会場内に設置される東急ブースで自社のソリューションや製品を披露・展示できるほか、東急主催のピッチコンテストにも出場することが可能だ。興味のある方は、ぜひ参加を検討してほしい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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